ドラッグストア 分析・研究・考察まとめ

ドラッグストア界隈のリサーチ結果を記事にします。批判や、分からない点、気になるトピック等あれば、気軽にご意見いただけると幸いです。

ポイントカード施策は有効か? ①

ドラッグストア各社のポイントカード施策

「ポイントカードはお持ちですか?」

買い物のたびに耳にするフレーズである。現在、多くの小売店が顧客囲い込みの目的の下、ポイントカードを取り入れている。そして、それはドラッグストアも例外ではない。

多くのドラッグストア企業も、ポイントカード施策を取り入れている。自社カードを発行している企業、主要ポイントカードを採用している企業、ポイントカード施策は一切取り入れていない企業まで存在している。

今回は、そんなポイントカード施策について考察していきたい。

 

 

各社の対応一覧

 以下表に、ドラッグストア大手7社の対応をまとめている。

 自社でポイントカードを作成している企業は、ツルハ、サンドラッグ、マツキヨ、スギ、ココカラファインの5社である。ただし、この中でもスギ薬局に関しては、毛色が異なっている。他社のポイントが、1ポイント1円単位の価値を持つのに対して、スギ薬局のポイントは景品との交換用に限られている。

 ポイントの詳細について見ていこう。各社とも還元率は基本的に1%と設定されている。例外として、ツルハは医薬品・制度化粧品が1%、その他が0.5%と商品によってポイント還元率が区分されていた。加えて、多くの企業が特定の日や商品について還元率を上げている。ざっと見る限りでは、一番優遇されるポイントカードはココカラファインのココカラクラブであろうか。毎月5の倍数の付く日は、全品5%還元であるため、他社よりも使い勝手の良い印象を受ける。

 

 その一方で、ウエルシアとコスモスは自社カードを持っていない。

 ウエルシアは、自社カードを作る代わりに、Tポイントカードを採用しているようだ。そのため、条件付きのポイント増加もTポイントについて設定されている。毎週月曜はTポイント還元率が2倍になり、20日はTポイントが1.5倍で使用できる。

 コスモスはさらに独自路線を行く。この企業は、自社カードを持たないだけでなく、楽天やTポイントのような主要ポイントカードについても導入していない。また別の機会に記事にしたいが、コスモスはコスト削減に最も力を入れているドラックストア企業である。ポイントカード施策についても、個人情報を管理するコスト、データ分析や販促のコストなどが発生するとして、完全に採用していない。それよりも、少しでも商品価格の低さに反映するという方針だ。

 

f:id:iz926:20200515184834p:plain

 

ポイントカード施策は有効か?

 以上が、ドラッグストア大手7社のポイントカード施策である。コスモスを除く各社はポイントカードを取り入れているようだ。では、その施策は有効な施策であるのだろうか?

 ポイントカード施策の最大の目的は、顧客の囲い込みに見いだされる。自社で買い物をすればするほど、ポイントが積み重なるため、顧客が買い物先を他社に乗り換えるコスト、いわゆるスイッチングコストが増加するからだ。それゆえ、ポイントカードの有効性は、顧客がカードから得る便益に依存する可能性が高い。

 

 しかし、ポイントカードから得られる便益に差はあるだろうか?各社とも基本ポイントは1%である。つまり、100円買い物するたびに、1円分のポイントが付加されるということだ。日用品・食品の買い物頻度は高いため、1%といえども長い目で見ればメリットとなるのは確かだが、1回の買い物で付与されるのはせいぜい数ポイントに過ぎない。メリットが実感できるまでのタイムラグを念頭に置くと、そこまで訴求力が高いだろうか?個人的には、家・職場の近くに存在するかというような、立地上の要素の方が行動を左右する印象を受ける。

 

 

 

ドラッグストア各社のオンライン対応

以前の記事で、ドラッグストアが抱える課題の一つとして、オンラインショップの台頭に言及した。 そこで、本記事では、ドラッグストア各社のオンライン対応について整理したい。

iz926.hatenablog.com

 

大手7社の対応は?

ほぼ全てが公式サイトを展開

まず、大手7社(ツルハ、ウエルシア、コスモス、サンドラッグ、マツキヨ、スギ、ココカラ)の基本的な対応について述べたい。結論から言うと、ほぼすべての企業が公式サイトは展開している。ツルハはe-shop本店、ウエルシアはウエルシアドットコム、コスモスはコスモスオンラインストアサンドラッグe-shop本店、マツキヨはマツモトキヨシオンラインストア、ココカラはココカラクラブを運営している。

 

ただし、唯一スギ薬局のみは現在オンラインショップを行っていない。以前は行っていたのだが、2015年2月末で閉鎖し、2020年5月現在まで再開されていない状況だ。

 

公式サイト成立の経緯

なぜ多くのドラッグストア企業が、オンライン販売体制を整えているのだろうか?勿論、ネットショッピングが普及する昨今において、オンライン販売を行うのは当然の対応である。しかし、ドラッグストア企業の場合、数年前まではオンライン販売の重要性は一層高かったのである。

ドラックストアの大きな利益源である医薬品の販売には、厳しい法規制が存在する。実際、医薬品のネット販売が許可されたのは2014年からだ。それも、現実の店舗で医薬品販売を行っている企業に限って許可された。従って、当時、医薬品をオンラインで購入する上で、ドラッグストア各社の公式サイトの存在感は小さくなかった。

しかし、2015年に楽天、2017年よりAmazonでも第一類医薬品の販売が始まった。各社は薬剤師を雇用し、オンラインで問診を行うことでオンライン販売を可能にしたのだ。

その結果、送料といった価格面・取扱品目といった利便性において、ドラッグストア企業の公式サイトは他者の下位互換という印象が拭えないのが現状だ。

公式サイトの違いは??

各社のサイトを見てもらえれば分かる通り、正直どれも同じような公式サイトである。UI(ユーザーインターフェース)も大差なく、強いて言えばコスモスが割と閲覧性が高い程度だ。明らかな違いといえば、PB(プライベートブランド)と送料くらいであろうか。

PBについては、各社それぞれの差別化要素になり得る。そこでしか買えないならば、その企業のサイトを利用するしかないからだ。しかし、そこまで訴求力の強いPBが各社に存在するとは言い難い。多くのPBはNB(ナショナルブランド)品の廉価版に過ぎないのが現状である。

送料については、1980円以上で無料(マツキヨ)から5980円以上で無料(ウエルシア)まで幅が存在する。ただし、一番送料の無料水準が低いマツキヨの公式サイトは、なぜか唯一トップページで送料について言及していない。尤も、安くても1980円以上であるため、基本送料が無料のAmzonに敵う訳もない。

 

海外企業のオンライン対応は?

以上の現状を見ると、有田(2020)が指摘する通り、オンラインショップの台頭はドラッグストア事業の大きな課題といえる。

では、どのような対応が望ましいのだろうか?オンラインショップの対応は、大きく分けて「抵抗」と「協調」の2つに分かれる。

「抵抗」の例は、世界最大のドラッグストアであるウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(WBA)である。Investopedia(米の金融メディア)の記事によると、WBAはAmzonの医薬品市場への参入に対抗するため、MicrosoftやAlphabet(Google等の持株会社)と提携し、IT面の強化を図っている。さらに、食料品店やヘルスケアビジネス、美容ビジネスといった分野との連携にも長年注力しており、自社商材の拡充も企図しているとのことだ。本記事は、Amazonとの抗争の結果、WBAが疲弊することを懸念する一文で締めくくられており、WBAAmazonい徹底抗戦する構えであることが窺える。

www.investopedia.com

 

「協調」の例は、アジア最大手のドラッグストアであるワトソンズである。例えば、孫(2015)によると、ワトソンズはリアル店舗からネットショッピングに移った消費者を再確保するために、タオバオ、京東、アマゾンとそれぞれ提携し出店している。

 

日本のドラッグストア企業は「協調」路線では?

個人的な意見としては、後者の「協調」路線が日本のドラッグストア企業に適していると考えている。

というのも、前者の「抵抗」路線が可能な体力は、日本のドラッグストア企業にないからだ。WBAの売上高は、国内最大手のツルハドラッグの20倍近くに相当する。そもそも米国のドラッグストア企業は、集約化が進行し、WBACVSの2強体制である。そこまで集約化が進行しておらず、個々の企業の資金力が高くない日本のドラッグストア企業は、Amzonとの徹底抗戦に耐えられないだろう。

 

それよりも、「協調」を目的として、既存のプラットフォームとの提携に注力すべきと考えている。

 

2社がAmazon Prime Nowと提携

事実、そうした例は存在している。

2017年4月、Amazonジャパンは、プライムの会員向けサービス「Prime Now(プライム ナウ)」で、ココカラファインマツモトキヨシと提携すると発表した。顧客が「Prime Now」でドラッグストアの商品を購入すると、アマゾンが受注・決済・収集・配送を担い、提携店が集荷と梱包を担うという提携内容だ。詳細は、以下記事が詳しい。

netshop.impress.co.jp

 

 この提携による、マツキヨ・ココカラのメリットは大きいと考えている。

想定されるメリットは、Amazonの強大なプラットフォームを利用できることだろう。各社の自社サイトよりもAmazonのサービスの方が、顧客へのリーチが広いことは明らかである。その一方で、想定されるデメリットは、収益の減少だ。Amazonと共同する以上、自社サイトで販売するよりも利益が減少するのは否めない。しかし、提携をせずに自社サイトのみの運用を続行するだけでは、そもそもの売り上げが期待できない。Amazonが既に浸透し、強力なプラットフォームとなっている以上、それと連携したビジネスモデルを志向するほうが筋が良いと考えられる。

 

 

 

ドラッグストアの海外進出【中国編】

 

 以前の記事で述べた通り、ドラッグストアは五重苦の時代(人口減少、可処分所得の減少、人手不足、オンライン販売、競争激化)を迎えている。これらの問題は、国内市場を舞台として生じているものだ。となれば、他の国にも目を向けて、海外進出を志向することは優れた一手にならないだろうか?

iz926.hatenablog.com

 

なぜドラッグストアの海外進出は上手くいっていないか?

 今回の記事は、そうした問題意識から始まった記事である。現状を念頭に置くと、ドラッグストアの海外進出は決して上手くいっていない。考えられる原因は、強力な競合の存在、コモディティ化した商材、医薬品販売への法規制である。

医薬品に加えて化粧品や食品を取りそろえる「スーパードラッグ」業態のドラッグストアは世界中で見られるビジネスモデルである。その中でも、世界最大のドラッグストアであるウォルグリーン・ブーツ・アライアンスの2019年の売上高は、5/7現在の円ドルレートで14兆億円にも上る。これは、国内最大手のツルハドラッグのほぼ20倍だ。マツキヨとココカラが合併した新会社でも1兆円規模であるから、海外の競合の大きさは格が違う。

加えて、ドラッグストアの扱う商材はコモディティ化が激しい。つまり、基本的には同質な商品を取り扱っており、値段以外で差別化が困難ということだ。その一方で、ドラッグストアのような小売業は、規模の経済が有効に働く。仕入量が大きいほど、取引先に対して有利な条件を取りやすく、仕入れ単価を下げることが出来るということだ。従って、競争の大局は、企業規模によって決まる可能性が極めて高い。

さらに、法規制の壁も存在する。医薬品の販売は、各国内の規制に大きく左右される。例えば、孫(2018)によると、中国は医薬品販売への規制が強く、医薬品を中心に取り扱う「薬店」と化粧品を中心に取り扱う「薬粧店」が独自に発達している。外国資本が参入できるのは、後者の薬粧店であり、利益率の高い医薬品を扱えないのは痛手である。

 

本記事群の目的

以上より、日本ドラッグストアの海外進出は現状上手くいっていない。しかし、勝ち筋が残っていないとは限らないと私は考えている。海外の強力な競合と正面勝負は出来ないが、現地企業との合弁事業等の戦い方はある。コモディティ化した商材についても、PB(プライベートブランド)の開発やカウンセリングの強化で対応できる。法規制の壁についても、国によっては上手く参入できる市場がある可能性は否定できない。

 

従って、本記事から始める一連の記事の目的は次のように定義される。「日本のドラッグストア企業の進出先として、有望な海外市場を見つけること」だ。第一弾として、今回は中国について検討したい。

 

中国のドラッグストア事情

市場環境

 孫(2018)によると、中国のドラッグストアが拡大し始めたのは2000年以降であり、まだ市場は発展途上にある。その一方で、2010年代より中国では高齢化が進行しており、それに伴う医療資源の不足を背景に「受診難(病院で受診することが難しい)」という社会問題も生じている。すなわち、ヘルスケア機能を有するドラッグストアが発展する可能性は高いと考えられる。 

特徴 ~「薬店」と「薬粧店」~

しかし、中国のドラッグストアが、諸外国と同様の発展を遂げるとは考え難い。政治体制を背景とする法規制の厳しさにより、「医薬品に加えて、化粧品や食品も多く取り扱う」というビジネスモデルが不可能であるからだ。

中国のドラッグストアにおける最大の特徴は、先ほども言及した「薬店」と「薬粧店」の分離であろう。以下は、孫(2015)を参考に、両者について整理した表である。医薬品中心の「薬店」と化粧品中心の「薬粧店」は、事業主体から想定する顧客まで大きく異なる存在といえる。

特に事業主体は異なり、薬店は内資系企業が多くみられる。

内資系企業とは国有資産、集団資産、国内の個人資産を利用して設立する企業である。内資系企業の資本金は国家、集団及び国民個人が所有する。内資系企業は資本金構成によって、国有企業、集団企業、私営企業、聯営企業、株式会社という五つに分類される。

f:id:iz926:20200507214957p:plain

医薬品中心・化粧品中心といっても、重複があるという指摘も考えられる。実際、両者の取扱品目には若干の重複が存在しており、孫(2015)は以下図表のように整理している。個々に重複は見受けられるが、中心となる商材には違いが存在しており、日本のように医薬品と化粧品両者を等しく扱う店舗ではない。

f:id:iz926:20200507214635p:plain

孫維維. (2015).より引用

 

日本のドラッグストアに参入余地はあるか?

最後に日本のドラッグストアによる参入余地について考察する。因みに、今までの実績としては、ウエルシアが2011年に中国進出を試みたが2019年に全店閉鎖、ココカラファインも一度撤退経験があり、2012年に再進出したものの店舗網の拡大には至っていない。

まず、医薬品を中心に扱う「薬店」については不可能といっても過言ではない。現在の薬店は、中国政府の関与する内資系企業が独占しており、外国資本に算入の余地はない。今後、中国政府の方針が大きく転換する可能性は否定できないが望み薄だろう。

 

となると、化粧品を中心に扱う「薬粧店」はどうだろうか?私は、薬粧店についても同様に参入は困難であると考えている。その理由は、ワトソンズの存在だ。ワトソンズとは、香港系の企業でアジア最大手のドラッグストアである。2019年時点で、中国国内に約3600店を展開している。

そして、このワトソンズというのが実に王道の勝ち方をしているのだ。孫(2015)によると、ワトソンズの成長要因は①PB(プライベートブランド)商品の開発、②発見式陳列の実施、③標準化された顧客対応オペレーションの普及、④産業間の連携と戦略的な店舗展開に集約される。

1つ目の、PB商品は日本のドラッグストアでも有力な勝ち筋の一つである。

2つ目の、発見式陳列とは、要は消費者が買い物しやすい陳列方法である。具体的には、主要ターゲットである女性の目線に合わせた陳列が一例である。これは、既に日本のドラッグストアやスーパーマーケットにおいても導入されている手法だ。

3つ目の顧客対応オペレーションも、いわゆる接客マニュアルの導入と徹底である。

4つ目の産業関連系として、ワトソンズは中国不動産最大手の大連万達グループ(WANDA plaza)と提携している。それにより、有利な店舗展開を可能としている。

 

以上を念頭に置くと、ワトソンズの中国展開はタイムマシン経営の成功事例と考えられる。タイムマシン経営とは、他国で成功したビジネスモデルを自国で展開することで先行者利益を得る経営手法である。

ワトソンズの中国展開の成功は、実に王道をたどっている。PBの開発や、顧客目線の陳列、接客マニュアルの徹底などは、他の先進国の小売業では一般的な手法といえる。中国で外資規制が緩和したタイミングで、いち早く進出の意思決定をして店舗展開を進めたのが勝因だろう。

化粧品販売や店舗進出について、中国当局地方自治体の認可を取る必要がある中国においては、この「いち早く」店舗展開を進めたという点は大きい。加えて、国内最大手の不動産会社と提携していることで、強い先行者利益を獲得している。

 

従って、現段階で日本のドラッグストア企業が進出するのは極めて筋が悪いと私は考えている。大きな利益源である医薬品が取り扱えない。規模の経済が有効な分野で、既に圧倒的な大企業が市場展開を進めている。土地や流通網といった現地の有用な資源が既に抑えられている。こうした中で、勝負を仕掛けても上手くいくはずがないだろう。

 

それよりも、中国展開は切り捨てて、他のアジア諸国に目を向けるべきであろう。途上国市場というとビジネスチャンスに乏しい印象を受けるかもしれないが、決してそんなことはない。ASEAN諸国は経済発展を続けており、中所得者層が増加している国もある。ミャンマーなどの低所得国についても、貧困層を対象としたBOPビジネスは、次のビジネスチャンスとして世界的に注目を集めているトピックである。

今後の記事では、アジア諸国について国ごとに記事を書き進めていきたい。

 

【参考文献】

孫維維. (2018). 中国ドラッグストアの発展について: 多様な競争に対応するための薬店と薬粧店の動向と課題. 専修ビジネス・レビュー, 13(1), 13-20.

 

孫維維. (2015). 中国におけるドラッグストア研究―事例研究: ワトソンズの成長要因に関する考察. 専修大学商学研究所報, 47(2), 1-43.

 

 

 

なぜ薬剤師はドラッグストアに就職するか

薬剤師の就職先という観点から、ドラッグストアについて考察したい。薬剤師の確保は、ドラッグストアが抱える大きな課題である。薬剤師がいなければ、調剤事業の実施やドラッグストアにおける要指導医薬品・第一類医薬品の販売が出来なくなるからだ。そこで、今回は薬剤師が就職先を選ぶという観点から、ドラッグストアの性質について記事にまとめていく。

 

薬剤師数の統計

薬剤師総数の推移

基本的な情報として、薬剤師の総数及びドラッグストアに勤務する薬剤師数について示しておく。以下図表は、厚生労働省「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計」に基づく。

 

f:id:iz926:20200503122028p:plain

まずは、薬剤師の総数から。上のグラフは、1968~2018年までの薬剤師数を表している。日本において薬剤師が着実に増加していることが読み取れる。高齢化社会を見据えた医療費抑制の観点から、この傾向は今後も続く可能性が高い。

 

施設種別薬剤師数の推移

f:id:iz926:20200503122231p:plain

続いて、薬剤師の主要な勤務先である薬局と医療施設について薬剤師数を見ていく。増加する薬剤師の受け入れ先として、薬局が大きく機能していることは明らかだ。ただし、あくまで「薬局」が対象であることには注意したい。統計の都合上、ドラッグストアのみを対象としたデータが存在しないため、それを包括する「薬局」データを参考にしていく。

 

年齢・施設種別薬剤師数

f:id:iz926:20200503123720p:plain

最後に、薬剤師の年齢に応じた各施設別従事者数を見ていく。「病院・診察所の従業者」、「医薬品関係企業の従事者」、「薬局の従事者」、「その他」について分類されている。上図より、年齢によって働く施設の傾向が変わることは読み取れない。絶対数として、比較的若い世代が薬局従事者のボリュームゾーンといえる。

 

なぜ薬剤師はドラッグストアに就職するか

給与面での魅力

就職先を考える上で、最も重要なものは給料であろう。そこで、他の就職先と比べたドラッグストアの給与について見ていく。これについては、COCOPharmaという薬剤師特化メディアが掲載している以下図表が分かりやすい。

f:id:iz926:20200503124318p:plain

COCOPharma「薬剤師の年収が低いのは病院?薬局?6種の平均ランキングで紐解いた」,2019/09/17, https://www.pharmama.net/saraly/

図表より、調剤薬局と病院と比べて、ドラッグストアの給与水準が高いことが読み取れる。事実、大手ドラッグストアの薬剤師に対する初任給は軒並み30万円を超えている。例えば、ウエルシアHDの基本給は35万5000円、ツルハHDは月給32万3000円に上る。

大学の学費負担が上昇し、奨学金に依存する学生が増加する昨今。初任給の高さは、若い薬剤師にとって大きな魅力となる可能性が高い。

心理的面での魅力

「医者に気を遣わない職場で働きたい」

続いて、個人的に気になった情報がある。日経ドラッグインフォメーションに掲載された記事で、山本さん(仮名)というドラッグストア勤務の薬剤師を対象としたインタビュー記事からの抜粋だ。

 山本さんが働く店舗では、ペットボトルの飲料水やお茶、おにぎりといった商品も取り扱っている。「品出しの手伝いはやらざるを得ないし、力仕事が多くて、土日祝日は忙しい。それでも私は接客が好きなので、別の店も含めると、ドラッグストアで10年以上働いている」「正社員で働く薬剤師の同僚にドラッグストアで働く理由を聞いてみると、『医者に気を遣わない職場で働きたかった』という人が多い」と山本さんは明かす。

 

媒体名

日経ドラッグインフォメーション

発行日

2018年09月号

この「医者に気を遣わない職場で働きたい」というポイントは、意外と重要な印象を受ける。

前掲の表が示すように、病院勤務の薬剤師(一般職)の給与は約380万円に過ぎない。その一方で、部門にもよるが民間病院で働く医者の給与は1000万円を優に超える。給与の格差は待遇の格差と同義であるため、実際の職場では大きな格差を感じる場面が少なくないのではないか。

 

参照点(Reference Point)に基づく説明

心理学の観点からも、この点の重要性は強調できる。心理学と経済学の学際分野である行動経済学において、参照点(Reference Point)という概念がある。簡単に言うと、参人は何らかの価値判断をする際に、絶対的でなく相対的な指標を参考にする本性があり、そこで参考にされるのが「参照点(Reference Point)」である。

例えば、マグカップの値段についての実験が分かりやすい。この実験では、無作為に選んだ実験参加者の半分に対して、マグカップが渡される。そして、マグカップを所有する参加者とマグカップを所有しない参加者はそれぞれ、マグカップの値段をつけるように求められるのだ。その結果、マグカップを所有する参加者は所有しない参加者よりも、統計的に有意に高い値段をつける傾向が判明した。

この実験の話の要点は、マグカップを所有するという状態によって、そのマグカップへの価値判断が左右するということだ。その背景には、所有することで、価値判断の基準となる参照点(Reference Point)が変化したことがある。

 

話をもとに戻そう。この参照点(Reference Point)の考えに基づくと、「医者に気を遣わない職場で働きたい」というポイントは、薬剤師が病院よりもドラッグストアを希望する大きな理由の一つと考えられる。3倍近い給料格差が存在し、社会的なステータスが上の存在と一緒に働くストレスは、計り知れないのではないだろうか。

 

ドラッグストア各社は、薬剤師の確保のために待遇面での強化を行う傾向がみられる。人材確保において、待遇強化は絶対条件であるのは確かだ。ただし、それだけでは他社との橋梁競争に陥る可能性が否めない。他の就職先と比べて「働きやすい職場」というアピールポイントを、もっと前面に押し出しても良いのではないだろうか。

 

五重苦の時代 ドラッグストアの取るべき戦略とは?

以前の記事で示した通り、ドラッグストア市場は緩やかにではあるが着実に成長している。しかし、その将来が明るいとは限らない。本記事では、ドラッグストア事業が迎える苦難について述べた後、ドラッグストア企業が取るべき戦略について説明したい。苦難については、有田英明著「ドラッグストアの教科書」を参考にしている。取るべき戦略については、BCGマトリックスの考えを用いている。

 

初めに、富士フィルムの例を紹介したい。その社名の通り、フィルムカメラ事業を中心とした会社であったが、デジタルカメラの普及に伴い本業が壊滅の危機にあった。しかし、写真フィルムの製造で培った技術力を活用した医療分野などに応用することで、新たな事業を想像して会社を再建させたのだ。企業の多角化の成功例として、教科書にも採用される事例である。

五重苦の時代とは?

有田(2020)は、ドラッグストアの今後を「五重苦の時代」と表現している。①人口減少、②お客の可処分所得の減少、③深刻な人手不足、④インターネット販売の急伸、⑤競争の激化という五重苦だ。

 

「①人口減少」と「③深刻な人手不足」は、既に別の記事でも言及している。日本で少子高齢化が急速に進行しており、労働人口が減少していることは周知の事実であろう。加えて、日本経済の低迷と相対的貧困の増加に伴い、「②お客の可処分所得の減少」も進行している。ごく一部の富裕層向けを除き、小売業のメインターゲットは大衆であるため、可処分所得の減少は客単価の減少を意味する。

「④インターネット販売の急伸」も、多くの小売業が抱える課題である。実店舗を持つ条件付ではあるが、既に医薬品のネット販売は許可されている。ドラッグストアに出向かずとも、Amazonで第一類医薬品を変える時代になっているのだ。「⑤競争の激化」は、単純な顧客の争奪に限らない。経営競争は、川上(仕入れ先)や川下(販売機会)においても発生し、ドラッグストア企業では調剤や介護といった進出先の局面でも競争は生じている。

 

以上を踏まえると、医薬品で利益を稼ぎ食品・日用品の安売りで集客を稼ぐという、従来のディスカウント型のドラッグストアの展望は決して明るくない。

 

ドラッグストアの取るべき戦略とは?

関連領域への多角化が鍵

有田(2020)は、「ソリューション型ドラッグストア」と称して、顧客の潜在需要を顕在化するビジネスを主張している。簡単に言うと、H&BC(ヘルス&ビューティーケア)機能と、顧客との関係性というドラッグストアの専門性を強化することで、ドラッグストア事業の価値を高めるという方針である。

しかし、私はこの主張はポジショントークに過ぎないと見ている。ドラックストアを中心とした小売業専門のコンサルタントが著者であるため、小売業という枠にとらわれた意見という印象が否めない。

 

それよりも、小売業という枠に限定されず、ヘルスケア機能を軸に関連領域に侵出すべきというのが私の主張である。要するに、シナジーを重視した関連領域への多角化である。なぜそう考えるか端的に言うと、ドラックストア企業には有望な多角化先、及び多角化において有効な経営資源を有しているからだ。

 

BCGマトリックスの導入

説明に当たって、多角化フレームワークである「BCGマトリックス」の考えを導入したい。製品ポートフォリオ・マネジメントともいわれ、企業における複数事業の位置づけを評価する上で有用なフレームワークである。

BCGマトリックスとは、市場成長率と相対的市場占有率(シェア)の2軸に基づいて、事業を以下図のように4分類する枠組みである。市場成長率が高くシェアが低い「問題児」、市場成長率が高くシェアが高い「花形製品」、市場成長率が低くシェアも低い「負け犬」、「市場成長率が低くシェアが高い「金のなる木」の4分類である。

 

f:id:iz926:20200428123512p:plain

このフレームワークの基本的な考えとは、「『金のなる木』で利益を稼いで『問題児』を『花形製品』に昇華させる」というものだ。「金のなる木」では、市場成長が鈍化しているが高シェアであるため、追加投資なしに利益が得られる。その一方で、「問題児」は、追加投資さえ得られれば「花形製品」に化ける可能性のある、最も有望な投資先である。従って、簡単に言い換えると、既に競争を終えて高シェアを獲得した既存事業の利益は、次の有望事業に投資しようという考えだ。

 

そんなことは当たり前じゃないか、と思われるかもしれないが、現実にそこまで合理的な経営が出来ることは少ない。ある事業で勝ち抜いた経験により、その事業の価値を過大評価するバイアスが避けられないからだ。加えて、過去の意思決定を覆すというのは心理的な負担が大きい。そのため、市場成長が鈍化してきたにもかかわらず、既存事業に投資を続けてしまう例は多い。こうした現象は、心理学分野では、「刷り込み(Imprinting)」や心理的サンクコスト(psychological sank cost)と呼ばれ、実証研究で効果が確かめられている。

 

 

ドラッグストア企業が取るべき戦略とは?

以上のフレームワークを踏まえて、ドラッグストア企業の多角化について論じたい。

ドラッグストア企業にとって「金のなる木」とはドラッグストア事業である。市場成長率については、ドラッグストア市場の成長は既に鈍化しており、事業としてライフサイクルの終盤に差し掛かっている。

シェアについても、法規制による参入障壁により、元々の参入企業数は多くない。加えて、さらに企業数が減っていく傾向が予測可能だ。その代表例が、マツモトキヨシココカラファインの合併だ。規模の経済が有効であり、商材がコモディティ化して差別化が困難な市場では、大きさが正義である。この合併により初の1兆円規模のドラッグストアが誕生し、今後も大規模合併が続く可能性は高いだろう。従って、大規模合併を通じて、ドラッグストア企業にとって、ドラッグストア事業が「金のなる木」と考えた。

 

続いて、ドラッグストア企業にとって「問題児」とは調剤や介護事業である。調剤は医療費負担の増加、介護は高齢者の増加というマクロ要因を背景に、ともに市場成長が見込まれる分野である。加えて、どちらの事業においても、医薬品販売で培ったヘルスケア面での経営資源と、小売を通じて蓄積した顧客関係面での経営資源が有効に活用できる。特に、介護においては小規模な事業が中心であるため、ドラッグストア事業という強力な利益源を有することは競争を有利に進められる。

 

従って、各ドラッグストア企業の獲るべき戦略は、ドラックストア事業を「金のなる木」として位置づけ、そこから生じる利益により多角化を思考すべきであると考えた。社会環境の変化により、小売業が苦境に立たされるのは避けられない。それならば、既存事業の枠組みにとらわれず、既存事業で培った経営資源を活用した多角化を思考すべきであろう。

 

【参考文献】

「ドラッグストアの教科書」, 有田英明著, ダイヤモンド社, 2020

 

ドラッグストアの顧客ライフサイクルマネジメントは可能か?

 

 

ココカラファインのとあるビジョン

2017年10月号の日経ヘルスケアに、ココカラファインについて紙面が割かれている。そこでは、同社が推進する介護事業について説明されており、ある経営幹部の言葉が述べられていた。

「未病の方にはドラッグストア、病気になれば調剤薬局、要介護状態になれば介護サービスと、地域の生活者に元気なときから介護が必要になったときまで切れ目のないサービスを提供できる体制を築くのが目的だ」

このビジョンは中々興味深い。ドラックストア企業による、顧客ライフサイクルマネジメントの構築と読み取れるからだ。

顧客ライフサイクルマネジメントとは、顧客の成長に伴う提供価値のラインナップを揃えることで、高収益な財・サービスに誘導するビジネスモデルである。ベネッセの「こどもちゃれんじ」しかり、トヨタの「いつかはクラウン」しかり、ビジネスの勝ちパターンの一つに数えられる。

そして、ドラッグ企業で、このようなビジネスモデルの先例はない。ドラッグ・調剤・介護は重なり合う事業領域であり、今後進んでいく高齢化社会にもマッチする印象を受ける。

顧客ライフサイクルマネジメントとは?

概要

今枝(2014)によると、

顧客ライフサイクルマネジメントとは、顧客の生涯のできるだけ早期に顧客とのコンタクトを構築し、顧客の成長による嗜好やニーズの変化、可処分所得の変化などに合わせて提供価値と収益性を変化させることによって利益を上げるビジネスモデル

である。

例えば、ベネッセは低年齢向けの「こどもちゃれんじ」を安価で提供することで、同社のメイン商材である「進研ゼミ」に誘導している。トヨタも、顧客の年齢や収入の上昇に合わせて、上位の車種を提案していくという手法を採用している。

 

価値の源

このビジネスモデルの優れている点は、マーケティング費用の大幅な節約に見いだされる。早期に顧客を抱え込み、自社の財・サービスに慣れ親しませてスイッチングコストを発生させることで、ライフサイクルの後半における販売促進が大きく軽減されるからだ。そのため、早期の製品・サービスの価格を利益度外視で安くすることが少なくない。早期に大きく間口を取って顧客を囲い込めば、後半で利益が確保できるからである。

加えて、提供のためのサプライチェーンや顧客管理のためのITシステムといったインフラは共通に使えるため、全体として規模の経済も発生する。

 

機能する条件

このビジネスモデルは、大きく2つの要素から構成される。1つ目は、ライフサイクルに沿って顧客を誘導する仕組み(製品間ナビゲーション)である。2つ目は、ライフサイクルに沿った財・サービスを取りそろえるラインナップ(製品ピラミッド)だ。この2つの要素が組み合わさることで、顧客ライフサイクルマネジメントの効果は最大限発揮される。

 

ドラッグストアでは可能か?

2つの構成要素は揃っているか?

以上を踏まえて、ドラッグストア企業にとって、顧客ライフサイクルマネジメントが有効か考えたい。

2つの構成要素の観点から考えを進める。

ドラッグストアの場合、製品ピラミッドは提供可能だ。未病・病気・要介護という年齢軸に沿って、ドラッグ事業・調剤事業・介護事業を展開することが出来る。年齢軸については、一般に年齢と所得の上昇は相関しているため、可処分所得の上昇も意味していると言える。

しかし、その一方で、製品間ナビゲーションが成立するとは限らない。ドラッグと調剤は、同一店内に併設されていることが多いため誘導は可能であるが、介護はサービスを提供する場面が大きく変わるからだ。介護サービスにまで、顧客を誘導させるような仕組みが今のところ存在していない。

例えば醤油などでは、できるだけ若い時期に、自社製品の使用を習慣として獲得させることにより一生に渡って自社製品を使用させるパターンもある。しかし、ドラッグストアで同様の手は取れないだろう。ドラッグストアの扱う商材はコモディティ化が著しいため、顧客を縛り付けるほどの心理的スイッチングコストが発生するには至らない可能性が高い。

最大の課題は?

従って、ドラッグストア企業は、顧客ライフサイクルマネジメントを成立させることは出来るが、その有効性を最大限発揮させられるとは限らないと考えられる。

最大の課題は、顧客を介護事業に誘導する仕組み作りだ。介護事業に調剤事業を組み入れるというパーツ単位では、優れた組み合わせであるのは確かである。そこで、ドラッグ事業・調剤事業の顧客を、介護事業の顧客にまで誘導するアイデアが何よりも求められる。

 

 

【参考文献】

『ビジネスモデルの教科書経営戦略を見る目と考える力を養う』, 今枝 昌宏/著, 東洋経済新報社, 2014

日経ヘルスケア 2017年08月号

調剤事業について

今回は、ドラッグストアにとって馴染み深い「調剤事業」をトピックとする。処方箋受付コーナーが備わったドラッグストアを目にしたことがある方も多いだろう。日本チェーンドラッグストア協会(横浜市)は、調剤医療費に占めるドラッグストアの構成比率を現在の約1割から、25年までに3~4割へ伸ばすと宣言している。そんな調剤事業について、概観・ビジネスモデル・課題に焦点を当て、ドラッグストア企業にとっての調剤事業の役割を考察したい。

調剤業界の概観

 まず、市場規模から見ていく。厚生労働省の「医科・調剤医療費の動向調査」より、以下グラフを作成した。多少の増減はあるが、増加傾向にあることが読み取れる。高齢化社会を念頭に置けば、今後も調剤医療費の増加していく可能性は見込まれる。

f:id:iz926:20200421121035p:plain

 

続いて、調剤業界における企業を見ていこう。これについては、mac advisaryが公開する以下の表が分かりやすい。このグラフより、大手であっても市場の占有率は低く、小規模な企業が多数存在しているという市場と言える。

 

f:id:iz926:20200421115940p:plain

f:id:iz926:20200421120014p:plain

mac advisary 「薬局業界の最新動向」https://www.mac-advisory.jp/trend/statusquo/

 

 

調剤事業のビジネスモデル

 薬局の収益構造は、大きく2つに分けられる。1つは調剤報酬で、薬剤師の調剤業務などに対する報酬だ。2つ目は薬価差額で、薬の公定価格(薬価)と仕入れ値の差額である。いずれも、国が原則2年毎に見直す診察報酬に左右される。つまり、調剤事業は市場原理よりも、政策に依存する事業と言える。

そして、その政策の風向きは、既存の調剤大手にとって望ましくない。厚生労働省は、単に医師の処方した薬を出すだけではなく、患者の服薬管理や指導、在宅ケアや24時間対応などを行う「かかりつけ薬局」を増やす方針を示している。これにより、病院近くで乱立する「門前薬局」よりも、住宅街などに普及するドラッグストアの役割が増す可能性が高い。

 

調剤の課題

収益が政策に完全に依存することがリスクだ。価格競争に晒されないという利点も存在するが、政策次第で事業環境が一変する危険性も意味している。事実、16年と18年の診療報酬改定で、門前薬局を対象に調剤基本料が引き下げられた。同様に薬価についても引き下げが続いており、20年度予算案での改定もマイナス1.01%となっている。 日経新聞朝刊(2019/12/26 )によると、改定の影響を受けて、18年度の大手調剤の営業利益は軒並み2~4割減ったそうだ。

 

ドラッグストアにとっての調剤事業

 さらに、既存の調剤大手にとっては、ドラッグストアの進出という脅威も存在する。高度な専門性と薬剤師の必要性により、基本的には参入障壁が立ちはだかるが、あいにくドラッグストアは参入の条件を満たしている。近年、厚生労働省が重視する、街中の「かかりつけ薬局」というビジョンにも、ドラックストアの親和性は高い。

さらに、幾つかのドラッグストア企業が推進する介護事業とのシナジーも期待できる。ココカラやマツキヨ等の大手ドラッグは、M&Aを通じて介護事業への進出を進めている。ココカラの経営幹部曰く、「未病の方にはドラッグストア、病気になれば調剤薬局、要介護状態になれば介護サービス」と切れ目ないサービスの提供が狙いだ。

この介護事業は、調剤事業との相性が良い。なぜなら、高齢者の多くは複数の薬を服用しているからだ。厚生労働省の「社会医療診療行為別統計」によると、75歳以上の高齢者のうち同じ薬局で月に5種類以上の薬を受け取っている人は40%、7種類以上の人は25%に上る。従って、介護に際してい両面からのサービスも提供可能となる。この点は、他の介護業者との差別化要素としても期待可能だ。

 

日本チェーンドラッグストア協会(横浜市)は、調剤医療費に占めるドラッグストアの構成比率を現在の約1割から、25年までに3~4割へ伸ばすと宣言している。ドラッグストアの調剤事業への進出は今後も継続する可能性が高い。各社がどのように薬剤師人材を確保しているかが今後の見どころである。