ドラッグストア 分析・研究・考察まとめ

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他業種の医薬品販売 根本的課題は人材か

 

島忠がサンドラッグから商品供給

サンドラッグがホームセンター大手の島忠と協業するようだ。サンドラッグから医薬品や健康食はの供給を受けることで、島忠は品揃えでの差別化を図る。

www.nikkei.com

 

この記事を読んで、一つ違和感を感じた。なぜ、島忠はサンドラッグから商品の供給を受けるのだろうか?
一般に、商品の仕入れ値は、仲介業者が多く入るほど高くなる。仲介業者がマージンを取るためだ。今回の島忠の場合、卸に加えてサンドラッグも仲介している。素直に考えれば、卸から直接仕入れをすれば良いのではないか?

仮に、商品供給ではなく人材面での協力なら話は分かる。医薬品の販売に必要な登録販売者や薬剤師の確保は、ドラッグストアよりもホームセンターの方が困難だろう。しかし、記事によると、今回の協業は商品供給に注力しているようだ。島忠は既に医薬品販売のための人材確保を始めていると記されている。従って、島忠は商品を仕入れるために、わざわざサンドラッグと協業したということだ。


考えられる仮説

以上より、2つの仮説が考えられた。

仮説1: 島忠とサンドラッグは提携を考えている。

まず、島忠とサンドラッグが将来的に提携を志向している可能性が考えられる。
仮にそうなら、今回の商品供給もその後の提携に向けた布石として理解できる。ドラッグストアとホームセンターで業種が異なるため、段階的な協業からスタートしたという想定は可能だ。

実際、ドラッグストアが他業種の小売企業と提携するケースは存在する。ドラッグストア大手のココカラファインHDは、2019年に準大手スーパーのイズミヤと業務提携を行った。その結果、両者の合弁会社であるココカラファインイズミヤが成立し、両者間で商品供給が行われている。

今回のケースも、そのような業務提携を目指したものと考えれば、今回の協業も理解しやすい。

しかし、島忠を取り巻く環境を考えると、この仮説は棄却されそうだ。2020年11月現在、家具大手のニトリHDとホームセンター大手のDCMHDは、島忠に対するTOB(株式公開買付)を進めている。どちらが島忠を手にするにしても、島忠はいずれかの完全子会社になる可能性が高い。

そうした状況下で、島忠がサンドラッグとの将来的な提携を進めるのは現実的ではない。会社が一緒になるというのは想像以上に大変なことだ。人事や経理システムの調整・統合は勿論。小売業の場合、商品の入れ替えも生じる。目前にそうした大ごとが控えている以上、島忠とサンドラッグの協業が将来を案じた布石であるとは考え難い。

それよりも、もっと短期的かつ功利的に考えたほうがよさそうだ。 

 

仮説2:  ドラッグストア領域へ参入する課題は仕入れにある。

次に、他業種からドラッグストア領域への参入において、商品の仕入れが課題であるという仮説が考えられる。
既存のドラッグストア企業と同じように、医薬品卸から直接仕入れをすることは、他業種小売業にとって困難であるということだ。そのため、島忠はわざわざサンドラッグを経由して、商品を仕入れているという仮説である。

 

では、なぜ卸からの直接仕入れが難しいのであろうか?私は、他業種については「卸優位のパワー関係」が存在していると考えている。

小売企業とベンダーのパワー関係を規定する主要因は、「取引依存度」である。取引依存度とは、売手が買い手に依存する程度を表す仕入依存度、あるいは買手が売り手に依存する程度を表す販売依存度を意味する用語だ、仕入依存度が小さいほど、また販売依存度が大きいほど、ベンダーに対する小売企業のパワー関係は強くなる。

そして、ホームセンターのような他業種の場合、医薬品卸がホームセンターに依存する仕入依存度は非常に低い。なぜなら、ドラッグストア企業という大きな買い手が既に存在しているからだ。さらに、ホームセンターが医薬品卸に依存する販売依存度は高い。なぜなら、医薬品卸業界は集約化が非常に進行しており、既に大手4社が8割を超えるシェアを確保しているからだ。従って、「卸優位のパワー関係」が成立していると考えられる。

 

その状況下では、島忠が医薬品卸から有利な条件で仕入れが出来る可能性が低い。医薬品の販売能力に限界がある島忠は、小ロットでの仕入れを希望する可能性が高いが、ベンダーにとって割の悪い小規模販売では条件はさらに悪くなるだろう。

そこで、ドラッグストア企業に白羽の矢が立ったと考えた。卸ではなくドラッグストア企業から商品供給を受ける場合、パワー関係は卸ほど偏らない。お互いに商品供給をすることで相手企業にもメリットが発生し、近隣店舗であれば配送費の負担も少なくなるからだ。これならば、島忠がサンドラッグから商品供給を受ける理由が理解できる。

人材不足こそが根本的課題 

先述した、仕入依存度について説明を加えたい。ホームセンター大手の島忠であれば、中小ドラッグストア企業よりも、大ロットで仕入れが出来る可能性はないのだろうか?仮に、それが出来るなら島忠の医薬品卸に対する仕入依存度は決して低くない。しかし、私はそれは厳しいと考えている。


薬機法の規制により、OTC医薬品を販売するためには薬剤師または医薬品登録販売者が必要となる。加えて、ロキソニンなど第一類医薬品を扱う場合は、薬剤師が必須だ。

しかし、ドラッグストアに比べて、他業種は資格者の確保が困難な可能性が高い。理由は労働者側のインセンティブ不足に見出せる。ドラッグストア以外の業種、多くはスーパーやホームセンター、ではドラッグストアよりも商品の幅も深さも大きい。加えて、あくまで商品の一部門に過ぎないため、キャリアの上限も限られてくるだろう。その一方で、給与を中心とした待遇面では、他業種とドラッグストアで大差はない。従って、担う労働量が多く、キャリアも制限されるにもかかわらず、待遇に差がないため、登録販売者や薬剤師が他業種小売で働くインセンティブは低いと考えられる。

前項の論証で「医薬品の販売能力に限界がある」と書いた理由は、この人材面での課題にある。卸から有利な条件を引き出すためには、大ロットでの一括仕入れが必要となる。その一方で、医薬品販売の人員確保が困難なホームセンターでは、大量の在庫を一度に抱えてしまうリスクが大きい。

 

こう考えると、薬機法の存在は、ドラッグストア業界にとって参入障壁として良く機能しているように思われる。ローソンのようにOTC医薬品への参入を試みる他業種小売業は多いが、成功例はまだ表れていない。人材という短期的な確保が困難な資本が条件となる以上、ドラッグストア業界への参入を過度に懸念する必要はない。

とはいえ、法規制が緩和されれば話は別だ。ECの進展に伴い、より柔軟な形に医薬品販売の規制が変化する可能性は決して小さくない。現状の参入障壁は、変わる可能性のある法律に根差すことには注意が必要だ。

 

 

【参考文献】

「島忠、サンドラッグと協業 医薬品や健康食品を拡充」, 日本経済新聞, 2020/11/5 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65881520V01C20A1H52A00/