ドラッグストア 分析・研究・考察まとめ

ドラッグストア界隈のリサーチ結果を記事にします。批判や、分からない点、気になるトピック等あれば、気軽にご意見いただけると幸いです。

ドラッグストアの顧客ライフサイクルマネジメントは可能か?

 

 

ココカラファインのとあるビジョン

2017年10月号の日経ヘルスケアに、ココカラファインについて紙面が割かれている。そこでは、同社が推進する介護事業について説明されており、ある経営幹部の言葉が述べられていた。

「未病の方にはドラッグストア、病気になれば調剤薬局、要介護状態になれば介護サービスと、地域の生活者に元気なときから介護が必要になったときまで切れ目のないサービスを提供できる体制を築くのが目的だ」

このビジョンは中々興味深い。ドラックストア企業による、顧客ライフサイクルマネジメントの構築と読み取れるからだ。

顧客ライフサイクルマネジメントとは、顧客の成長に伴う提供価値のラインナップを揃えることで、高収益な財・サービスに誘導するビジネスモデルである。ベネッセの「こどもちゃれんじ」しかり、トヨタの「いつかはクラウン」しかり、ビジネスの勝ちパターンの一つに数えられる。

そして、ドラッグ企業で、このようなビジネスモデルの先例はない。ドラッグ・調剤・介護は重なり合う事業領域であり、今後進んでいく高齢化社会にもマッチする印象を受ける。

顧客ライフサイクルマネジメントとは?

概要

今枝(2014)によると、

顧客ライフサイクルマネジメントとは、顧客の生涯のできるだけ早期に顧客とのコンタクトを構築し、顧客の成長による嗜好やニーズの変化、可処分所得の変化などに合わせて提供価値と収益性を変化させることによって利益を上げるビジネスモデル

である。

例えば、ベネッセは低年齢向けの「こどもちゃれんじ」を安価で提供することで、同社のメイン商材である「進研ゼミ」に誘導している。トヨタも、顧客の年齢や収入の上昇に合わせて、上位の車種を提案していくという手法を採用している。

 

価値の源

このビジネスモデルの優れている点は、マーケティング費用の大幅な節約に見いだされる。早期に顧客を抱え込み、自社の財・サービスに慣れ親しませてスイッチングコストを発生させることで、ライフサイクルの後半における販売促進が大きく軽減されるからだ。そのため、早期の製品・サービスの価格を利益度外視で安くすることが少なくない。早期に大きく間口を取って顧客を囲い込めば、後半で利益が確保できるからである。

加えて、提供のためのサプライチェーンや顧客管理のためのITシステムといったインフラは共通に使えるため、全体として規模の経済も発生する。

 

機能する条件

このビジネスモデルは、大きく2つの要素から構成される。1つ目は、ライフサイクルに沿って顧客を誘導する仕組み(製品間ナビゲーション)である。2つ目は、ライフサイクルに沿った財・サービスを取りそろえるラインナップ(製品ピラミッド)だ。この2つの要素が組み合わさることで、顧客ライフサイクルマネジメントの効果は最大限発揮される。

 

ドラッグストアでは可能か?

2つの構成要素は揃っているか?

以上を踏まえて、ドラッグストア企業にとって、顧客ライフサイクルマネジメントが有効か考えたい。

2つの構成要素の観点から考えを進める。

ドラッグストアの場合、製品ピラミッドは提供可能だ。未病・病気・要介護という年齢軸に沿って、ドラッグ事業・調剤事業・介護事業を展開することが出来る。年齢軸については、一般に年齢と所得の上昇は相関しているため、可処分所得の上昇も意味していると言える。

しかし、その一方で、製品間ナビゲーションが成立するとは限らない。ドラッグと調剤は、同一店内に併設されていることが多いため誘導は可能であるが、介護はサービスを提供する場面が大きく変わるからだ。介護サービスにまで、顧客を誘導させるような仕組みが今のところ存在していない。

例えば醤油などでは、できるだけ若い時期に、自社製品の使用を習慣として獲得させることにより一生に渡って自社製品を使用させるパターンもある。しかし、ドラッグストアで同様の手は取れないだろう。ドラッグストアの扱う商材はコモディティ化が著しいため、顧客を縛り付けるほどの心理的スイッチングコストが発生するには至らない可能性が高い。

最大の課題は?

従って、ドラッグストア企業は、顧客ライフサイクルマネジメントを成立させることは出来るが、その有効性を最大限発揮させられるとは限らないと考えられる。

最大の課題は、顧客を介護事業に誘導する仕組み作りだ。介護事業に調剤事業を組み入れるというパーツ単位では、優れた組み合わせであるのは確かである。そこで、ドラッグ事業・調剤事業の顧客を、介護事業の顧客にまで誘導するアイデアが何よりも求められる。

 

 

【参考文献】

『ビジネスモデルの教科書経営戦略を見る目と考える力を養う』, 今枝 昌宏/著, 東洋経済新報社, 2014

日経ヘルスケア 2017年08月号