ドラッグストア 分析・研究・考察まとめ

ドラッグストア界隈のリサーチ結果を記事にします。批判や、分からない点、気になるトピック等あれば、気軽にご意見いただけると幸いです。

調剤事業について

今回は、ドラッグストアにとって馴染み深い「調剤事業」をトピックとする。処方箋受付コーナーが備わったドラッグストアを目にしたことがある方も多いだろう。日本チェーンドラッグストア協会(横浜市)は、調剤医療費に占めるドラッグストアの構成比率を現在の約1割から、25年までに3~4割へ伸ばすと宣言している。そんな調剤事業について、概観・ビジネスモデル・課題に焦点を当て、ドラッグストア企業にとっての調剤事業の役割を考察したい。

調剤業界の概観

 まず、市場規模から見ていく。厚生労働省の「医科・調剤医療費の動向調査」より、以下グラフを作成した。多少の増減はあるが、増加傾向にあることが読み取れる。高齢化社会を念頭に置けば、今後も調剤医療費の増加していく可能性は見込まれる。

f:id:iz926:20200421121035p:plain

 

続いて、調剤業界における企業を見ていこう。これについては、mac advisaryが公開する以下の表が分かりやすい。このグラフより、大手であっても市場の占有率は低く、小規模な企業が多数存在しているという市場と言える。

 

f:id:iz926:20200421115940p:plain

f:id:iz926:20200421120014p:plain

mac advisary 「薬局業界の最新動向」https://www.mac-advisory.jp/trend/statusquo/

 

 

調剤事業のビジネスモデル

 薬局の収益構造は、大きく2つに分けられる。1つは調剤報酬で、薬剤師の調剤業務などに対する報酬だ。2つ目は薬価差額で、薬の公定価格(薬価)と仕入れ値の差額である。いずれも、国が原則2年毎に見直す診察報酬に左右される。つまり、調剤事業は市場原理よりも、政策に依存する事業と言える。

そして、その政策の風向きは、既存の調剤大手にとって望ましくない。厚生労働省は、単に医師の処方した薬を出すだけではなく、患者の服薬管理や指導、在宅ケアや24時間対応などを行う「かかりつけ薬局」を増やす方針を示している。これにより、病院近くで乱立する「門前薬局」よりも、住宅街などに普及するドラッグストアの役割が増す可能性が高い。

 

調剤の課題

収益が政策に完全に依存することがリスクだ。価格競争に晒されないという利点も存在するが、政策次第で事業環境が一変する危険性も意味している。事実、16年と18年の診療報酬改定で、門前薬局を対象に調剤基本料が引き下げられた。同様に薬価についても引き下げが続いており、20年度予算案での改定もマイナス1.01%となっている。 日経新聞朝刊(2019/12/26 )によると、改定の影響を受けて、18年度の大手調剤の営業利益は軒並み2~4割減ったそうだ。

 

ドラッグストアにとっての調剤事業

 さらに、既存の調剤大手にとっては、ドラッグストアの進出という脅威も存在する。高度な専門性と薬剤師の必要性により、基本的には参入障壁が立ちはだかるが、あいにくドラッグストアは参入の条件を満たしている。近年、厚生労働省が重視する、街中の「かかりつけ薬局」というビジョンにも、ドラックストアの親和性は高い。

さらに、幾つかのドラッグストア企業が推進する介護事業とのシナジーも期待できる。ココカラやマツキヨ等の大手ドラッグは、M&Aを通じて介護事業への進出を進めている。ココカラの経営幹部曰く、「未病の方にはドラッグストア、病気になれば調剤薬局、要介護状態になれば介護サービス」と切れ目ないサービスの提供が狙いだ。

この介護事業は、調剤事業との相性が良い。なぜなら、高齢者の多くは複数の薬を服用しているからだ。厚生労働省の「社会医療診療行為別統計」によると、75歳以上の高齢者のうち同じ薬局で月に5種類以上の薬を受け取っている人は40%、7種類以上の人は25%に上る。従って、介護に際してい両面からのサービスも提供可能となる。この点は、他の介護業者との差別化要素としても期待可能だ。

 

日本チェーンドラッグストア協会(横浜市)は、調剤医療費に占めるドラッグストアの構成比率を現在の約1割から、25年までに3~4割へ伸ばすと宣言している。ドラッグストアの調剤事業への進出は今後も継続する可能性が高い。各社がどのように薬剤師人材を確保しているかが今後の見どころである。