ドラックストア市場観
データで見るドラッグストア市場観
ドラッグストア市場の動向についてまとめたい。
まず、市場規模(売上高)及び店舗数について見てみよう。データは、経済産業省が公開する商業動態統計を参照した。この統計には、ドラッグストアを対象としたデータが2014年より存在する。以下図表は、そのデータに基づき、売上高と店舗数をプロットしたものである。
これらより、市場規模と店舗数共に増加傾向にあることが読み取れる。成長率を見てみると、どちらも2014~2019にかけて年平均6%増加している。
これらだけ見ると、ドラッグストア市場の展望は明るく見える。事実、人口減少と少子高齢化が急速に進む日本社会において、着実に市場規模を拡大させている小売業は多くない。
各メディアのドラッグストア市場観
次に、各メディアが述べる市場観について、2011~2019年に出された記事を抜粋してみた。 参考にした媒体は、「日経ビジネス」、「日経ドラッグインフォメーション」、「薬学生新聞」、「週刊東洋経済」である。
(2011)
日本チェーンドラッグストア協会によれば、2010年度の国内ドラッグストアの市場規模は5兆6308億円。拡大はしているものの、既にその伸び率は年々鈍化している。
媒体名
発行日
2011年08月29日号
(2013)
日本チェーンドラッグストア協会の推計によると、ドラッグストア全体の市場規模は2012年度の見込み額で前年度比2.4%増の5兆9408億円にとどまった。規模の拡大は続いているものの、伸び率は2000年度の調査開始から初めて3%を切った。また、主に伸びたのは豆腐や納豆などの日配品、生鮮野菜といった「食品」分野で、化粧品や医薬品などの商材は横ばいの状態だ。
媒体名
発行日
2013年11月25日号
(2017)
1990年代に急成長が始まったドラッグストアの市場は、いまも拡大は続いている。日本チェーンドラッグストア協会によれば、2016年度の市場規模は前年度比5.9%増の6兆4916億円。縮小が続く百貨店をすでに追い抜き、10兆円強のコンビニエンスストアの3分の2の規模を持つ。消費者の生活を支える小売業の代表的な業態になった。
だが一方で店舗飽和の足音は確実に忍び寄る。16年度の店舗数は1万8874店で、1年間で約400店も増えた。店舗数の拡大によって市場が膨らんでいる構図であり、1店舗当たりの売り上げは11年度から低下し始めた。16年度は訪日客需要で持ち直したものの、10年度までの6年間では18%も伸びていたことを見れば、頭打ちになったのは明らかだ。必然的にそれぞれの店舗の経営は厳しくなっている。
媒体名
発行日
2017年10月09日号
(2018)
日本チェーンドラッグストア協会の「日本のドラッグストア実態調査(2017年度版)」によれば、国内の総店舗数は1万9534店舗と2万店をうかがう。店舗数の上位7社が、1000を超えている状態だ(図1)。総売上高は、15年前の2002年度には3兆4940億円だったが、今や6兆8504億円と、2倍近くになっている。
媒体名
発行日
2018年09月号
JACDSが半年に1度発表している「ドラッグストア業界研究レポート」の18年後期版を見ると、17年度のドラッグストアの状況は、売上高が6兆8504億円。12年度から低迷期が続いていたが、16年度が5.9%、17年度は5.5%と2年連続で5%を超える伸びを見せており、業界でも「再成長の兆しが見えてきた」としている。
2019年3月1日 (金) 薬学生新聞
(2019)
少子高齢化などを背景に小売業界全般が失速している状況下、市場拡大を続けるドラッグ業界は「唯一の勝ち組」といわれてきた。医薬品や日用品に加えて、ここ数年は食品、化粧品など品ぞろえを拡張。調剤薬局併設も増やしている。「何でも屋」として存在感を増すことでスーパーやコンビニエンスストアから客を奪ってきた。
業界各社は出店攻勢を続け、18年度には総店舗数が2万店を超過した。出店増に伴い、業界の総売上高は伸びている。しかし、店舗急拡大の結果、1店舗当たりの売上高はここ数年横ばいにとどまっている。
週刊東洋経済(2019年12月7日)
それぞれに共通するポイントとして、今後の成長に対する懸念が窺える。一応、現状は増加傾向が着実に進んでいるものの、決して楽観視できないという論調だ。
【まとめ】ドラッグストアの今後は?
最後に、以上を踏まえて、ドラッグストア市場に関する私の見解を述べたい。端的に言うと、私は「既存の」ドラッグストア事業の将来は決して明るくないと考えている。
小売業というドラッグストアの前提を念頭に置くと、そう考えるのも妥当だ。ドラッグストアのビジネスモデルとは、食品や日用品を安く売って集客源とする一方で、高利益率の医薬品・カウンセリング化粧品といったH&BC(ヘルス&ビューティーケア)商品で稼ぐというものである。
非常にシンプルながらも、強力なビジネスモデルであるのは確かだ。医薬品の販売には、法規制による参入障壁が存在する。従って、高利益率の商材を抱えることで、他の小売よりも値付け・雇用について有利に立ち回れる。それ故に、上述した「週刊東洋経済」が語るように、ドラッグストアは小売業の「唯一の勝ち組」といわれてきたのだ。
しかし、小売業の中では有利に立ち回れても、小売業の宿命からは逃れられない。それは、人口減少である。当たり前だが、人口が1割減れば、売上も1割減る。さらに、少子高齢化により労働人口が減少することも追い打ちをかける。
他の産業であれば、国内需要の減少に対して海外進出も選択肢に入るが、ドラッグストアの海外進出は容易ではない。なぜなら、 薬のみならず化粧品や食品を多く扱ういわゆる「スーパードラッグ」業態のドラッグストアは世界各地に既に存在するからだ。世界最大手の「ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス」(米・英・瑞の大手ドラッグ3社の統合会社)や「ワトソンズ」(香港)は、既に海外展開を進めている。加えて、医薬品販売に関する法規制の壁も大きい。例えば、中国への進出では医薬品販売が許可されないため、化粧品を武器とした展開しか手段が残らない。
従って、私は「既存の」ドラッグストア事業の将来は決して明るくないと考えている。ただし、あくまで「既存の」ビジネスモデルに関してである。個人的には、ドラッグストア企業には、まだ「勝ち筋」が残っているというのが私の意見だ。それについては、また別の記事で述べていきたい。