自動レジ、品質トラッキング、棚卸簡略化! RFIDの可能性
とある記事への違和感
RFIDとは
概要
RFIDとは、ID情報を埋め込んだRFタグから、電磁界や電波などを用いた近距離の無線通信によって情報をやりとりするもの、および技術全般を指す。 従来のRFタグは、複数の電子素子が乗った回路基板で構成されていたが、近年、小さなワンチップのIC で実現できるようになってきた。
普及状況
小売業におけるRFIDの活用は、進み始めている。例えば、2017年経済産業省は、大手コンビニ各社の合意のもと、「特殊な条件がない商品に貼付する電子タグの単価が1円以下になっていること」などを条件に、全ての取扱商品に電子タグを利用する「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定した。これが実現すれば、推計で年間1000億個もの商品の単品管理が可能となる。
あくまで、電子タグの単価が1円以下になるという条件付ではあるが、後述するように決して非現実的な話ではない。
ドラッグストアへの貢献
RFIDの活用例
棚卸
富士物流HPより引用
品質管理
デメリット
そんな便利なRFIDだが、当然デメリットも存在する。本記事では、コストの高さと、代替技術の存在について考察したい。
コスト
RFIDの導入を妨げる最大の要因は、そのコストの高さである。コストの概念は、導入コスト、維持コスト、機会コストの3つで構成されるため、それぞれについて考えてみる。
導入コストは、間違いなく最大の課題であろう。コンビニのケースでも、「2025年までに単価が1円以下になっていること」という付帯条件があった。
しかし、電子タグの生産費用は経験曲線を描くという点には留意すべきである。
経験曲線とは、操業・生産経験の蓄積によって、製品1単位当たりの労働・生産コストが減少することを意味する。古くは、Thorndike(1913)により心理学分野で提唱された学習の法則が、Wright(1936)を端緒に経営学分野に持ち込まれて定説となった。そのWright(1936)の研究では、軍用機の累積生産量が2倍になった時、平均労働コストが20%減少することが示されている。
以下の図は、小野塚(2019)より引用したものだ。RFIDタグの単価について、推移の実際値と予測が示されている。見事に、学習効果が働き費用の推移が経験曲線を描いていることが読み取れる。一般に、学習効果が機能する条件として、標準化された商品や、顧客志向が固定化された商品、未成熟商品が想定されている。そして、RFIDは、これら条件を満たしうるはずだ。従って、私はRFIDの単価は当分の間は減少し続けるだろうと楽観視している。とはいえ、私は精密機器の専門家ではないため、これを鵜呑みにされても困る。
小野塚(2019)より引用
話をもとに戻そう。RFIDは導入コストが高い。確かに、単価は年々減少しているが、付番する必要のある商品数は膨大に存在する。さらに、バーコードに代替する存在として捉えるならば、周辺機器も一新する必要がある。例えば、IDタグを認識するスキャナー型端末を全て入れ替えなければならない。加えて、現在の小売店で主流となっているPOSシステムは、バーコードの存在を前提としているため、レジ回りにも費用が生じる。
全店舗について、これら費用が生じると考えると、導入コストは決して安くない。
次に、維持コストは、そこまで懸念材料にはならない。基本的に、バーコードと同じ運用が想定されるため、特別ない維持コストは生じないだろう。ただし、冷蔵・冷凍環境下や、水滴がつく商品については、特別な配慮が求められる可能性はある。
最後に、機会コストとしては、後に言及する代替技術の存在が懸念される。多額の導入コストを投じて、RFIDを取り入れても、それに代わる安価な技術が登場すれば無駄に終わってしまう。多額の導入コストが伴うがゆえに、それ以外に使えたであろう用途は膨大であろう。
誰が費用を負担するか
導入コストが多額に上ると述べたが、それに関して誰が費用を負担するのかも検討に値する。仮に全商品に電子タグを付番するとなった場合、誰がコストを負担すべきだろうか。
現在のバーコードは、ブランドの所有者が付番することになっている。しかし、RFIDへの転換には、小売側の思惑も相当に存在している。この場合では、メーカーだけが導入費用を払うべきとは考え難い。
しかし、小売側も負担するとなると負担割合の決定は非常に厄介である。NB(ナショナルブランド)商品の場合、その卸先は莫大な数に上るだろう。その全てについて、出荷割合に基づいて費用負担を計算するのは、あまりに現実的ではない。
こうした問題があるからか、現段階でRFIDを活用できているのは、ユニクロのように製造から販売まで手掛けるSAP(製造小売業)が中心となっているのが現状だ。
画像認識という代替技術
最後に、RFIDの代替的な技術について触れたい。小野塚(2019)は、RFIDの有力な代替ソリューションとして、カメラやセンサーを組み合わせることで実現される画像認識システムを挙げている。例えば、無人店舗として有名な「アマゾンGO」では、RFIDタグを使うことなく、画像認識でレジレス会計を実現している。
画像認識では、過誤や箱の中に入っていたり、折り重なっている商品の認識が困難という難点は存在する。しかし、店内のカメラ数を増加すればいいのだから話は簡単だ。RFIDのような莫大な導入コストが必要ないというのは大きな魅力に映る。
RFIDの導入を検討する上では、こうした代替技術の動向にも気を配る必要があるだろう。
RFIDの可能性
総じて、私はRFIDという技術に、ポジティブな印象を抱いている。確かに、デメリットも相当に存在するのは否めない。しかし、今後の人口減少や機械化の進展を念頭に置くと、圧倒的な削人化に貢献し得るRFIDの持つポテンシャルは非常に大きいと考えている。
目下の関心は、コンビニに続いて、ドラッグストア業界で電子タグを導入する企業がどこになるのかである。このトピックについては、引き続きアンテナを張っていきたい。
2020/11/3付日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65667460Q0A031C2LB0000/