ドラッグストア 分析・研究・考察まとめ

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自動レジ、品質トラッキング、棚卸簡略化! RFIDの可能性

とある記事への違和感

今日、日経を眺めていたらある記事に目が留まった。
表題の通り、ディスカウントストアを運営するビッグ・エーが、複数面に大きくバーコードを記載したPBパッケージを導入した話だ。バーコードの視認性が向上することで、レジ時間の短縮に貢献するらしい。さらに、ビッグエーが導入を検討しているセルフレジでの見易さも念頭に置いているとのことだ。
 
正直、周回遅れのような印象を受けた。確かに、考えは分からなくはない。バーコードが分かりにくかったら、レジでの手間は増えてしまうだろう。将来、セルフレジを導入した際も、大きくて見やすいバーコードは、子供や高齢者に歓迎されるに違いない。そこで、バーコードを大きく印刷してしまおうというのは局所的には理にかなっている。
 
しかし、昨今の小売業で普及し始めた技術を念頭に置くと、今更バーコードに投資をすることに違和感を覚える。その技術とは、「RFID」のことだ。
 

RFIDとは

概要

まずは、Wikipediaの概説を見てみよう。
 RFIDとは、ID情報を埋め込んだRFタグから、電磁界や電波などを用いた近距離の無線通信によって情報をやりとりするもの、および技術全般を指す。 従来のRFタグは、複数の電子素子が乗った回路基板で構成されていたが、近年、小さなワンチップのIC で実現できるようになってきた。
簡単に言うと、RFIDタグとは電子タグの一種である。具体例としては、交通系ICカードがわかりやすい。改札でSUICAPASMOを近づけると、「ピッ」となり支払いが済むだろう。その一連の処理において使われる技術だ。
他にも、ユニクロの自動レジも分かりやすい。既に使ったことのある方も多いだろうが、ユニクロは自動レジの導入を推進している。商品が入ったカゴを指定の場所に入れるだけで、自動で値段が算出されるというあれだ。私も使ったことがあるが、一瞬で会計が済むことに感動した記憶がある。その商品認識に使われている技術こそが、RFIDだ。
 

普及状況

小売業におけるRFIDの活用は、進み始めている。例えば、2017年経済産業省は、大手コンビニ各社の合意のもと、「特殊な条件がない商品に貼付する電子タグの単価が1円以下になっていること」などを条件に、全ての取扱商品に電子タグを利用する「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定した。これが実現すれば、推計で年間1000億個もの商品の単品管理が可能となる。

 

あくまで、電子タグの単価が1円以下になるという条件付ではあるが、後述するように決して非現実的な話ではない。

 

ドラッグストアへの貢献

この技術で最も重要な点は、非接触型という点である。ドラッグストア企業にとっては、非接触型のバーコードとして機能する可能性を秘めている。これは、単に自動レジに応用可能というだけではない。それだけでなく、品質管理や棚卸し作業の圧倒的労力削減も可能にする技術だ。
 

RFIDの活用例

棚卸

従来の棚卸し作業では、一つ一つの商品を手作業で集計する必要があった。業務のほとんどを業者に委託している企業も多いだろうが、店舗数が増えるほどその委託費用もかさんでくる。加えて、手作業での集計では、膨大な時間がかかるだけでなく、ミスが生じる可能性も高まる。
 
それに対して、非接触型のバーコードが存在するならば、商品数の集計は棚単位で一括して行える。段ボールやコンテナに入ったままの商品も、いちいち取り出す必要なく集計できてしまうのだ。従って、業者に委託する必要性もなくなり、棚卸に伴う業務は圧倒的に削減できる。
 
事実、以下で画像を引用している富士物流の導入事例では、棚卸作業にかかる時間が従来の「7分の1」にまで削減したと報告されている。
 

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富士物流HPより引用

 
棚卸業務は、小売経営において欠かせない業務だ。当然、多くの店舗を展開するドラッグストア企業も例外ではない。個人的な印象として、年に2回程度はどの企業も行っている感じがある。
信頼性は定かではないが、このサイトによると棚卸の費用は「定額の場合の相場が2万円~5万円程度、時間単位の場合の相場は『時給1000円~2000円程度×作業者数』」らしい。Web上で適当に拾ってきた数字であるが、そこまで実態から乖離していないだろう。
そこで、分かりやすさを重視して、1店舗当たりの費用が2.5万円と仮定しよう。次に、年に2回棚卸を行うとすれば、年間の費用は5万円だ。最後に、店舗数だが、現在最も店舗数が多いツルハHDで2000店舗強であるため、2000店舗とする。
この場合、年間にかかる棚卸費用は、1億円に及ぶ。来年誕生する、マツモトキヨシHDとココカラファインHDの合併後の店舗数は、3000店舗を超えるため、その場合だと年間1億5千万にも及ぶ計算だ。
 

品質管理

さらに、商品単位での管理が可能になることで、個体でのトラッキングも可能になる。
 
商品個体ごとに異なるコードを付与することが可能になるので、異物混入や欠陥が判明した非常時にも、リコールの対象となる商品の特定が容易になる。加えて、どこの店にどういった経路で届けられたか具体的に特定できるため、品質管理にも役立つ。
 
例えば、日本酒「黒龍」「九頭龍」などを製造する黒龍酒造は、RFIDを用いた商品の品質管理を実施している。日本酒のような商品は、管理状況によって風味に影響が生じるため、ブランド維持の一環として導入したそうだ。最近の記事によると、今後1~2年で、全品に電子タグをつける予定らしい。
 

デメリット

そんな便利なRFIDだが、当然デメリットも存在する。本記事では、コストの高さと、代替技術の存在について考察したい。

コスト

RFIDの導入を妨げる最大の要因は、そのコストの高さである。コストの概念は、導入コスト、維持コスト、機会コストの3つで構成されるため、それぞれについて考えてみる。

導入コストは、間違いなく最大の課題であろう。コンビニのケースでも、「2025年までに単価が1円以下になっていること」という付帯条件があった。

 

しかし、電子タグの生産費用は経験曲線を描くという点には留意すべきである。

経験曲線とは、操業・生産経験の蓄積によって、製品1単位当たりの労働・生産コストが減少することを意味する。古くは、Thorndike(1913)により心理学分野で提唱された学習の法則が、Wright(1936)を端緒に経営学分野に持ち込まれて定説となった。そのWright(1936)の研究では、軍用機の累積生産量が2倍になった時、平均労働コストが20%減少することが示されている。

以下の図は、小野塚(2019)より引用したものだ。RFIDタグの単価について、推移の実際値と予測が示されている。見事に、学習効果が働き費用の推移が経験曲線を描いていることが読み取れる。一般に、学習効果が機能する条件として、標準化された商品や、顧客志向が固定化された商品、未成熟商品が想定されている。そして、RFIDは、これら条件を満たしうるはずだ。従って、私はRFIDの単価は当分の間は減少し続けるだろうと楽観視している。とはいえ、私は精密機器の専門家ではないため、これを鵜呑みにされても困る。

 

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小野塚(2019)より引用

 

話をもとに戻そう。RFIDは導入コストが高い。確かに、単価は年々減少しているが、付番する必要のある商品数は膨大に存在する。さらに、バーコードに代替する存在として捉えるならば、周辺機器も一新する必要がある。例えば、IDタグを認識するスキャナー型端末を全て入れ替えなければならない。加えて、現在の小売店で主流となっているPOSシステムは、バーコードの存在を前提としているため、レジ回りにも費用が生じる。

全店舗について、これら費用が生じると考えると、導入コストは決して安くない。

次に、維持コストは、そこまで懸念材料にはならない。基本的に、バーコードと同じ運用が想定されるため、特別ない維持コストは生じないだろう。ただし、冷蔵・冷凍環境下や、水滴がつく商品については、特別な配慮が求められる可能性はある。

最後に、機会コストとしては、後に言及する代替技術の存在が懸念される。多額の導入コストを投じて、RFIDを取り入れても、それに代わる安価な技術が登場すれば無駄に終わってしまう。多額の導入コストが伴うがゆえに、それ以外に使えたであろう用途は膨大であろう。

誰が費用を負担するか

導入コストが多額に上ると述べたが、それに関して誰が費用を負担するのかも検討に値する。仮に全商品に電子タグを付番するとなった場合、誰がコストを負担すべきだろうか。

現在のバーコードは、ブランドの所有者が付番することになっている。しかし、RFIDへの転換には、小売側の思惑も相当に存在している。この場合では、メーカーだけが導入費用を払うべきとは考え難い。

しかし、小売側も負担するとなると負担割合の決定は非常に厄介である。NB(ナショナルブランド)商品の場合、その卸先は莫大な数に上るだろう。その全てについて、出荷割合に基づいて費用負担を計算するのは、あまりに現実的ではない。

 

こうした問題があるからか、現段階でRFIDを活用できているのは、ユニクロのように製造から販売まで手掛けるSAP(製造小売業)が中心となっているのが現状だ。

 

画像認識という代替技術

最後に、RFIDの代替的な技術について触れたい。小野塚(2019)は、RFIDの有力な代替ソリューションとして、カメラやセンサーを組み合わせることで実現される画像認識システムを挙げている。例えば、無人店舗として有名な「アマゾンGO」では、RFIDタグを使うことなく、画像認識でレジレス会計を実現している。

画像認識では、過誤や箱の中に入っていたり、折り重なっている商品の認識が困難という難点は存在する。しかし、店内のカメラ数を増加すればいいのだから話は簡単だ。RFIDのような莫大な導入コストが必要ないというのは大きな魅力に映る。

RFIDの導入を検討する上では、こうした代替技術の動向にも気を配る必要があるだろう。

 

RFIDの可能性

総じて、私はRFIDという技術に、ポジティブな印象を抱いている。確かに、デメリットも相当に存在するのは否めない。しかし、今後の人口減少や機械化の進展を念頭に置くと、圧倒的な削人化に貢献し得るRFIDの持つポテンシャルは非常に大きいと考えている。

目下の関心は、コンビニに続いて、ドラッグストア業界で電子タグを導入する企業がどこになるのかである。このトピックについては、引き続きアンテナを張っていきたい。

 
 
【参考文献】
Thorndike, E. L. (1913). The psychology of learning (Vol. 2). Teachers College, Columbia University.
Wright, T. P. (1936). Factors affecting the cost of airplanes. Journal of the aeronautical sciences, 3(4), 122-128.
 
ロジスティクス4.0 物流の創造的革新」, 小野塚 征志 (著), 日経文庫), 2019/3/16
 
経済産業省「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定しました~サプライチェーンに内在する社会課題の解決に向けて~, https://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170418005/20170418005.html
 
「ビッグ・エー、PBに複数バーコード レジ時間短縮」, 2020/11/4 11:00日本経済新聞 電子版, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65748810S0A101C2TJ1000/
 
富士物流「事例:RFIDICタグ)で棚卸時の現品確認作業を効率化」https://www.fujibuturyu.co.jp/solution/case15.html
 
黒龍電子タグで流通管理 ブランド力向上へ1本ごと 正規以外のルート特定
2020/11/3付日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65667460Q0A031C2LB0000/
 
「棚卸の基本と、棚卸業者による代行業務の相場について」