ドラッグストア 分析・研究・考察まとめ

ドラッグストア界隈のリサーチ結果を記事にします。批判や、分からない点、気になるトピック等あれば、気軽にご意見いただけると幸いです。

ドラッグストアのスーパー化 食品比率に関する考察

 

食品比率を高めるドラッグストア

近年、ドラッグストア企業が食品の品ぞろえを強化する動きが散見される。

例えば、日本チェーンドラッグストア協会の統計によると、コスモス薬品の売上に占める食料品の比率は57%に及ぶ。実際、そうした動きを肯定的に論じる記事を目にする機会も増えてきた。

成長のけん引役は食料品の販売増だ。総売上高のうち、菓子類や酒類、冷凍食品などを含む「フーズ・その他」は8%増の2兆1039億円と、伸び率は医薬品(5%増)などと比べても高い。
 ドラッグストアは利益の大半を粗利益率が4割超にもなる医薬品、3割前後の化粧品で稼ぐ。食料・日用品はスーパーやコンビニに比べ利益度外視で価格を抑え、消費者をひき付けられる。
 各社は食料品事業を深掘りしている。ツルハホールディングスは2月末で約280店で精肉と青果を販売し、ウエルシアホールディングスはグループのオリジン東秀(東京都調布市)製の弁当の品ぞろえを増やす。

 

ドラッグストア、食料品を深掘り、20年連続成長、7.7兆円市場に、精肉・青果、オリジン弁当も。2020/05/20 日本経済新聞 朝刊 15ページ

 

ドラッグ店各社は大量出店に加え、医薬品で稼いだ利益で食品を値引きするモデルで成長してきた。ただ、家計支出の比率は、医薬品や化粧品の比率は3割程度で、残りのほとんどは食品が占めている。Genkyは市場規模が大きい食品にシフトする姿勢が鮮明だ。
 売上高に占める食品の比率は6割を超える。ドラッグ店業界でも高いとされるコスモス薬品の57%、クスリのアオキHDの4割強に比べて高い。藤永社長は「他のドラッグ店より、食品スーパーがライバルだ」と打ち明ける。

 

Genky、稼ぐ特効薬は食品、総菜も充実、脱ドラッグストア。

2020/08/03 日経MJ(流通新聞) 4ページ

 

クスリのアオキホールディングス(HD)は、食品スーパー運営のナルックス(金沢市)を買収すると発表した。(中略)

ドラッグストア業界全体でも食品を重視する動きが出ている。新型コロナウイルス感染拡大で外出自粛やテレワークが広がり、自宅から極力近い小売店で食料品や日用雑貨の買い物を済ませたい消費者が増えた。
食品の売上高構成比率が6割弱に上るコスモス薬品の既存店売上高は、4~5月に15%以上伸長した。食品、雑貨、医薬品、化粧品を「ワンストップ」でそろえる利便性が集客につながっている。

 

クスリのアオキ、金沢のスーパー買収、鮮魚のノウハウ吸収、順次医薬品販売も。2020/06/10 日経MJ(流通新聞) 4ページ

 

 

コロナによる食品特需も印象的だ。「ドラッグストア コロナ」などで調べると、食品需要の高まりを受けて、ドラッグストアの売上が伸びていると述べる記事が数多く存在する。事実、以前の記事でも引用したように、ドラッグストア各社が出している決算短信においても、食品需要の高まりは須らく言及されている。

 

iz926.hatenablog.com

こうした情勢を考えると、今後食品比率を強化するドラッグストアは増えてくるという予想も可能だ。特に、今回のコロナで、食品に弱いマツモトキヨシHDやココカラファインHDが大打撃を受けた一方で、食品比率が高い競合他社が大幅な増収を達成したことで、食品強化に向けた組織レベルでの学習が促進された可能性は高い。

 

では、短期的には上手くいった食品強化は、長期的にも良い戦略と言えるのであろうか。食品比率強化に伴うデメリットを指摘することで、その是非を考えたい。 

 

食品強化のデメリット

ドラッグストアが食品比率を高める上でのデメリットを挙げていく。

コストの増大

まず、コストの増大が指摘できる。コストとは、初期投資に関するイニシャルコストと、維持に関するオペレーションコスト、選択肢の幅に関する機会コストの3点に分けられる。

第1に、イニシャルコストとしては、必要な店舗面積の増大及び、必要設備の増加が考えられる。有田(2020)は、スーパーマーケットと戦える生鮮売場を作るとなると、売場面積は600坪程度は必要になると述べている。これは、一般的なドラッグストアの倍以上の店舗面積となる。加えて、店内加工の弁当や総菜のような商材を扱うとすれば、その加工スペース・設備・人員も要求されることとなる。

第2に、オペレーションコストとしては、人件費が大きな課題となる。当たり前だが、扱う商材が増えれば、そこで働く店員の負担が比例して増大する。しかし、先述したように出店コストが高まるならば、人件費を抑制するインセンティブも高まるだろう。そうなると、労働負担に給与が見合わなくなり、人材確保が困難となる。ドラッグストア事業には、薬剤師や登録販売師、化粧品の専門家が求められるため、人材確保は他の競合よりも重大な課題だ。

第3に、機会コストとしては、投資回収期間の増加や出店機会の減少が問題となる。今までのドラッグストアよりも出店コストが高まるならば、投資を回収するための期間が長くなり、異なる戦略への切り替えが困難となるだろう。加えて、1年間に出店できる数も減少するはずだ。

 

地域性が高い商材

加えて、食品という商材を扱う上で、地域性という問題も生じる。これは、地域によって好まれる商品の傾向が異なってくるという問題だ。

この点に関して、矢作(2012)が総合スーパーを展開するイズミを題材に興味深い事れを紹介している。イズミは広島に本社を置く企業で、「ゆめタウン」に代表される総合スーパーを西日本中心に展開している。そのイズミが1995年に初めて九州に進出した際、醤油の品揃えについて、ナショナルブランド40%・ローカルブランド50%・プライベートブランド10%の構成でスタートしたそうだ。しかし、実際の販売結果は、ローカルブランドの売り上げが95%を占め、プライベートブランドはほとんど売れなかったそうだ。

ただし、これはあくまで極端な例だ。九州の醤油市場という特殊な分野が対象であり、時代も今よりナショナルブランド知名度が低い90年代の話である。しかし、他の商材に比べて、地域によって好まれる商品の傾向が異なるといった問題が存在するのは確かであろう。

 

競争の観点

さらに、 競合との関係という観点からは、スーパーの存在が真っ先に思いつく。食品比率を強化した場合、生鮮食品及び加工食品の取り扱いに優れ、地域に根付いたスーパーは極めて強力な競合となる。

H&BCを軸としたドラッグストアであれば、食品はあくまで集客源の一つに過ぎず、利益を減らしても価格を下げることが出来た。しかし、コストがかさむ生鮮食品等を拡充するとなると、食品の値下げにも限度があるだろう。だからといって、質で勝負を挑むにしても、既に高い品質を保持しているスーパーに比肩することはコスト過剰が懸念される。

 

最大の課題:既存の延長モデルに過ぎない

最後に、最大の問題としてイノベーションの観点から指摘したい。ドラッグストアの食品強化は、既存の小売モデルの延長線上にある改善に過ぎない。しかし、今後の市場動向を踏まえると、ドラッグストアには抜本的な改革が必要と考えられるため、食品強化の戦略としての評価は低いと考えている。

私は、商品を仕入れて店舗で販売するという小売モデル自体が、将来性が低いと考えている。ネット販売の急伸や、人口減少によるマーケット縮小を念頭に置くと、店舗による小売ビジネスが存続できるとは考え難い。

そこで、既存小売店は、今とは異なる勝ち筋を見出す必要があるはずだ。店舗をメディア化するのか、物流機能を強化するのか、ドラッグストアならヘルスケア機能を強化するのか。その方法は分からないが、既存のやり方とは抜本的に異なったビジネスモデルに切り替える必要性は高い。

そう考えると、既存の小売モデルの延長線上に位置する食品比率強化は筋が悪い。短期的には安さで顧客を集めて売上を高めることが出来ても、長期的にはスーパーにもドラッグストアにも勝てない中途半端なビジネスに終わる可能性が高いといえる。

 

10年後の勝者はだれか?

コロナによる食品需要の増大を受け、業績に格差が生じたドラッグストア業界では、既存の食品強化を更に推進する企業が増えるかもしれない。しかし、個人的にはH&BC(ヘルスケア&ビューティーケア)の専門性を高める戦略こそが勝ち筋であると考えている。

両者の代表例としては、食品強化型にはコスモス薬局、H&BC強化型にはマツモトキヨシHDが挙げられる。そして、両者の異なる傾向はそれぞれ強まっていくはずだ。既に食品比率を高めて、低コストオペレーションを徹底しているコスモスがH&BCに舵を切る可能性は低い。そして、マツキヨが食品強化を志向する可能性も同様に低い。

というのも、マツキヨは食品強化から撤退した経緯があるからだ。マツキヨは、1976~2006年という長期間にわたって、食品スーパー事業に取り組んでいた。しかし、廃棄ロスの多い食品は、経営が悪化した際に足を引っ張ることや、近くにスーパーが存在する都市型の店舗では無理に広げる必要がないと判断した過去がある。

 

従って、少なくとも両者の代表例と言える、コスモスとマツキヨは、異なる道を進み続けると考えている。長期的な観点で、最後に生き残るドラッグストアはどちらになるだろうか。

2019年3月期におけるマツキヨの化粧品売上高は2277億円で全体の4割を占める。医薬品や食品などを合わせた売上高全体では業界5位のマツキヨだが、化粧品に限った売上高ではライバル他社を大きく引き離して単独1位だ。

 一方のココカラも化粧品の売上高構成比は3割に達し、19年3月期は1080億円。この2社が組めば、化粧品売上高は3300億円を超える規模となり、2位のサンドラッグに倍以上の差をつけることになる。

https://diamond.jp/articles/-/212785

 

 

【参考文献】

「ドラッグストアの教科書」, 有田英明, ダイヤモンド社, 2020年

「日本の優良小売業の底力」, 矢作敏行, 日本経済新聞出版社, 2012

日経ビジネス 2017年10月09日号

 「Genky、稼ぐ特効薬は食品、総菜も充実、脱ドラッグストア」2020/08/03 日経MJ(流通新聞) 4ページ

 「ドラッグストア、食料品を深掘り、20年連続成長、7.7兆円市場に、精肉・青果、オリジン弁当も。」2020/05/20 日本経済新聞 朝刊 15ページ

クスリのアオキ、金沢のスーパー買収、鮮魚のノウハウ吸収、順次医薬品販売も。」

2020/06/10 日経MJ(流通新聞) 4ページ