ドラッグストア 分析・研究・考察まとめ

ドラッグストア界隈のリサーチ結果を記事にします。批判や、分からない点、気になるトピック等あれば、気軽にご意見いただけると幸いです。

ドラッグストア各社 特徴とトレンド

ドラッグ各社を分類する

ドラックストア各社について、それぞれの特徴に基づいて分類していく。お客として利用する立場では、各社にそこまで違いを感じてないかもしれない。選り好みする基準は「家から近い」か、せいぜい「ポイントカードを持っているか」という人が多いだろう。ただし、各社とも「取り扱う商品」や「店舗規模」、「店舗形態」について違いが存在する。

本記事では、各社の特徴について分類した後、ドラッグストア市場のトレンドまで言及したい。

 

各社の大きな違い

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媒体名

日経トレンディ

発行日

2019年10月号

 

 まず、「商材」と「店舗規模」について各社の傾向を見ていこう。これについては、「日経トレンディ 2019/10」が作成した上図が詳しい。縦軸に「食品比率」、横軸に「店舗サイズ」でプロットされた各社のポジショニングマップである。

 

ここで、「食品比率」と「店舗サイズ」という、2つの軸について補足しておこう。ドラッグストアの価値は、「安さ」・「利便性」・「専門性」の大きく3つに分けられる。ドラッグストア各社の経営方針は、どれを意識した店舗展開をしているかに反映されているのだ。

「食品比率」は、「安さ」・「利便性」と「専門性」の傾向をよく表す指標と言える。これが高いほど「安さ」・「利便性」重視の傾向があり、これが低いほど「専門性」重視の傾向があるという分析が可能だ。「専門性」重視とは、H&BC(ヘルス&ビューティーケア)重視とも言い換えられる。薬剤師が必要な調剤や第一類医薬品等の販売や、美容部員が必要なカウンセリング化粧品を取り扱う程度を意味している。一方で、「店舗サイズ」はシンプルに「利便性」を表す。

 

以上より、上図よりドラッグストア各社は大きく3つの傾向に分かれることが読み取れる。1つ目は、大規模かつ食品重視のタイプ。これは業態としてスーパーマーケットに近く、コスモスが該当する。2つ目は、小規模かつ食品重視のタイプ。これは業態としてコンビニエンスストアに近く、ツルハ・サンドラッグ・ウェルシアが該当する。3つ目は、小規模かつ専門性重視のタイプ。これはドラッグストアのヘルスケア機能を重視したタイプであり、マツキヨ・スギ・ココカラファインが該当する。

 

ドラッグストア事業のトレンド

このように各社の特徴を見てみると、昨今のドラッグストア事業のトレンドが読み取れる。現在の業界トップシェアはツルハとウェルシアである。つまり、食品も取り扱っている小型店という形態が主流である可能性が高い。事実、これは参入障壁のあるH&BCで利益を稼ぎ、食品・雑貨で集客を稼ぐというドラッグストアのビジネスモデルに合致した形態といえる。小売業の競合である、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに対しては強力なビジネスモデルだ。

 

その一方で、来年のマツキヨとココカラが合併により、ヘルスケア機能重視型のドラッグストアが業界首位に躍り出る。私は、これによりドラッグストアビジネスの主流もヘルスケア機能重視型に移行すると考えている。なぜなら、それが今後の社会情勢にマッチしたビジネスである可能性が高いからだ。

ご存知の通り、現在の日本では人口減少・少子高齢化が急速に進行している。これは、小売業にとって市場のパイの直接的な減少を意味する。当然だが、人口が1割減れば売上は1割減るのである。そうなると、今までのような小売り機能を重視した形態は筋が悪い。勝ち筋は、人口動態の変化を踏まえたヘルスケア機能を重視した形態にあると考えている。

この路線は、女性の社会進出や医療費負担の増加という変化にもマッチしている。労働人口の減少に伴い、女性の社会進出に対する要求が更に強まる可能性は高い。それにより、化粧品需要は高まるだろう。さらに、高齢化に伴う医療費負担の増加により、医薬品需要の増加も見込まれる。実際に、厚生労働省はこの問題に対処するため薬局の役割を重視しており、それは「かかりつけ薬局」の推進に見て取れる。

 

従って、今後のドラッグストア事業のトレンドは、ヘルスケア機能を重視したタイプに移行すると考えている。さらに踏み込んだ主張をすると、ドラッグストア事業を中心にする必要性はないかもしれない。小売業が迎えるであろう苦境を想定すると、早い段階で関連領域に侵出すべきであろう。H&BC(ヘルス&ビューティーケア)の機能は、調剤や化粧品だけでなく、健康市場や介護市場にもシナジーが活かせる。ドラッグストア事業という「金のなる木」をレバレッジして、関連領域で覇権を取る路線が協力であろう。

そう考えると、ドラッグストアが取るべき道はマクロ的には今までと同じである。高利益な医薬品で稼ぎ、コンビニやスーパー市場に侵出したように、ドラッグストア事業で稼ぎ、関連領域に進出するというスケールアップだ。

 

ドラックストア市場観

データで見るドラッグストア市場観

ドラッグストア市場の動向についてまとめたい。

まず、市場規模(売上高)及び店舗数について見てみよう。データは、経済産業省が公開する商業動態統計を参照した。この統計には、ドラッグストアを対象としたデータが2014年より存在する。以下図表は、そのデータに基づき、売上高と店舗数をプロットしたものである。

 

これらより、市場規模と店舗数共に増加傾向にあることが読み取れる。成長率を見てみると、どちらも2014~2019にかけて年平均6%増加している。

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これらだけ見ると、ドラッグストア市場の展望は明るく見える。事実、人口減少と少子高齢化が急速に進む日本社会において、着実に市場規模を拡大させている小売業は多くない。 

各メディアのドラッグストア市場観

次に、各メディアが述べる市場観について、2011~2019年に出された記事を抜粋してみた。 参考にした媒体は、「日経ビジネス」、「日経ドラッグインフォメーション」、「薬学生新聞」、「週刊東洋経済」である。

(2011)

日本チェーンドラッグストア協会によれば、2010年度の国内ドラッグストアの市場規模は5兆6308億円。拡大はしているものの、既にその伸び率は年々鈍化している。

媒体名

日経ビジネス

発行日

2011年08月29日号

 

(2013)

 日本チェーンドラッグストア協会の推計によると、ドラッグストア全体の市場規模は2012年度の見込み額で前年度比2.4%増の5兆9408億円にとどまった。規模の拡大は続いているものの、伸び率は2000年度の調査開始から初めて3%を切った。また、主に伸びたのは豆腐や納豆などの日配品、生鮮野菜といった「食品」分野で、化粧品や医薬品などの商材は横ばいの状態だ。

媒体名

日経ビジネス

発行日

2013年11月25日号

 

(2017)

 1990年代に急成長が始まったドラッグストアの市場は、いまも拡大は続いている。日本チェーンドラッグストア協会によれば、2016年度の市場規模は前年度比5.9%増の6兆4916億円。縮小が続く百貨店をすでに追い抜き、10兆円強のコンビニエンスストアの3分の2の規模を持つ。消費者の生活を支える小売業の代表的な業態になった。

 だが一方で店舗飽和の足音は確実に忍び寄る。16年度の店舗数は1万8874店で、1年間で約400店も増えた。店舗数の拡大によって市場が膨らんでいる構図であり、1店舗当たりの売り上げは11年度から低下し始めた。16年度は訪日客需要で持ち直したものの、10年度までの6年間では18%も伸びていたことを見れば、頭打ちになったのは明らかだ。必然的にそれぞれの店舗の経営は厳しくなっている。

媒体名

日経ビジネス

発行日

2017年10月09日号

 

(2018)

 日本チェーンドラッグストア協会の「日本のドラッグストア実態調査(2017年度版)」によれば、国内の総店舗数は1万9534店舗と2万店をうかがう。店舗数の上位7社が、1000を超えている状態だ(図1)。総売上高は、15年前の2002年度には3兆4940億円だったが、今や6兆8504億円と、2倍近くになっている。

媒体名

日経ドラッグインフォメーション

発行日

2018年09月号

JACDSが半年に1度発表している「ドラッグストア業界研究レポート」の18年後期版を見ると、17年度のドラッグストアの状況は、売上高が6兆8504億円。12年度から低迷期が続いていたが、16年度が5.9%、17年度は5.5%と2年連続で5%を超える伸びを見せており、業界でも「再成長の兆しが見えてきた」としている。

2019年3月1日 (金) 薬学生新聞

 

(2019)

 少子高齢化などを背景に小売業界全般が失速している状況下、市場拡大を続けるドラッグ業界は「唯一の勝ち組」といわれてきた。医薬品や日用品に加えて、ここ数年は食品、化粧品など品ぞろえを拡張。調剤薬局併設も増やしている。「何でも屋」として存在感を増すことでスーパーやコンビニエンスストアから客を奪ってきた。

 業界各社は出店攻勢を続け、18年度には総店舗数が2万店を超過した。出店増に伴い、業界の総売上高は伸びている。しかし、店舗急拡大の結果、1店舗当たりの売上高はここ数年横ばいにとどまっている。

週刊東洋経済(2019年12月7日)

 

 それぞれに共通するポイントとして、今後の成長に対する懸念が窺える。一応、現状は増加傾向が着実に進んでいるものの、決して楽観視できないという論調だ。

【まとめ】ドラッグストアの今後は?

 最後に、以上を踏まえて、ドラッグストア市場に関する私の見解を述べたい。端的に言うと、私は「既存の」ドラッグストア事業の将来は決して明るくないと考えている。

 

 小売業というドラッグストアの前提を念頭に置くと、そう考えるのも妥当だ。ドラッグストアのビジネスモデルとは、食品や日用品を安く売って集客源とする一方で、高利益率の医薬品・カウンセリング化粧品といったH&BC(ヘルス&ビューティーケア)商品で稼ぐというものである。

 非常にシンプルながらも、強力なビジネスモデルであるのは確かだ。医薬品の販売には、法規制による参入障壁が存在する。従って、高利益率の商材を抱えることで、他の小売よりも値付け・雇用について有利に立ち回れる。それ故に、上述した「週刊東洋経済」が語るように、ドラッグストアは小売業の「唯一の勝ち組」といわれてきたのだ。

 

 しかし、小売業の中では有利に立ち回れても、小売業の宿命からは逃れられない。それは、人口減少である。当たり前だが、人口が1割減れば、売上も1割減る。さらに、少子高齢化により労働人口が減少することも追い打ちをかける。

 他の産業であれば、国内需要の減少に対して海外進出も選択肢に入るが、ドラッグストアの海外進出は容易ではない。なぜなら、 薬のみならず化粧品や食品を多く扱ういわゆる「スーパードラッグ」業態のドラッグストアは世界各地に既に存在するからだ。世界最大手の「ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス」(米・英・瑞の大手ドラッグ3社の統合会社)や「ワトソンズ」(香港)は、既に海外展開を進めている。加えて、医薬品販売に関する法規制の壁も大きい。例えば、中国への進出では医薬品販売が許可されないため、化粧品を武器とした展開しか手段が残らない。

 

 従って、私は「既存の」ドラッグストア事業の将来は決して明るくないと考えている。ただし、あくまで「既存の」ビジネスモデルに関してである。個人的には、ドラッグストア企業には、まだ「勝ち筋」が残っているというのが私の意見だ。それについては、また別の記事で述べていきたい。

 

 

 

 

ドラッグストア 売上高ランキング

ドラッグストア 売上高ランキング

ドラッグストア各社について、売上高の順で整理する。

データは「業界地図2020年版」を参照しており、2018年度版の数値に基づいている。

 

  企業名 売上高 営業利益
1 ツルハホールディングス 7824 418
2 ウエルシアホールディングス 7791 290
3 コスモス薬局 6111 247
4 サンドラッグ 5880 352
5 マツモトキヨシホールディングス 5759 360
6 スギホールディングス 4884 258
7 ココカラファイン 4005 129

 

上記の表が、2018年度におけるドラックストア大手7社の売上高ランキングである。併記している営業利益とは、「売上高」から「売上原価」と「販売費及び一般管理費」を引いたものだ。「売上原価」とは販売する商品の原価を、「販売費及び一般管理費」とは人件費・広告費・光熱費といった費用を意味する。 

 

今後の予想

ただし、少なくとも2021年を契機に、この勢力図は一変する。業界5位のマツモトキヨシホールディングスと、業界7位のココカラファインによる合併が行われるからだ。正式な統合は2021年10月に予定されており、合併後の売上高は約1兆円と業界首位に躍り出る。

 

そして、この影響は業界他社のM&Aを促す可能性が高い。理由は3つある。

1つ目は、ドラッグストア事業は、一般的に規模の経済が有効な事業領域であるからだ。すなわち、製品の仕入れやシステムの一般化などを通じて、企業規模が大きいほど高い利益率を維持できると考えられる。

2つ目は、市場成長が鈍化しているからだ。緩やかな成長傾向は続いているが、ドラッグストア市場自体、既にライフサイクルの後半に差し掛かっている。パイの拡大が期待できない以上、パイの占有が志向されるのは妥当であろう。

3つ目は、差別化の困難さだ。突き詰めると、ドラッグストアのビジネスモデルとは、日用品や化粧品を集客源にして、利益率の高い医薬品を販売するというシンプルなものである。医薬品の取り扱いには法律上の参入障壁があり、他業界からの参入は抑制されているが、市場内では同様のビジネスモデルが展開されている。各社とも様々に画策しているが、極めてコモディティ化したビジネスと言える。

以上3点を踏まえると、今後のドラッグストア業界は、M&Aを通じた規模拡大路線に変換していくと考えられる。今回のような1兆円規模のM&Aは前例がないため、しばらくは経過を様子見する者もいるだろうが、競合他社も指をくわえてみているだけではいられない。

 

 

 

【参考文献】

「日経業界地図2020年版」,日本経済新聞社, 2019/08

 1兆円メガ薬局の誕生 マツキヨ&ココカラ統合で突入する巨大再編時代2019.8.26 5:30
https://diamond.jp/articles/-/212785