なぜコロナでドラッグストア企業の明暗は分かれたのか?
コロナで分かれたドラッグストア企業の明暗
最近、コロナの影響を受けてドラッグストアの業績が2分化してきている。
ダイアモンド・チェーンストアの記事によると、2・3月期決算の上場ドラッグストア企業8社の第1四半期業績において、8社中6社が増収増益となっている。
その中でも大手に目を向けてみたい。ウエルシアHDは、売上高が対前期比10.5%増の2325億円、営業利益は同29.4 %増の105億。サンドラッグは、売上高が同2.9%増の1568億円、営業利益は同12.0%増の107億円。スギHDは、売上高が同16.3%増の1499億円、営業利益は同20.8%増の89億円だった。
その一方で、マツモトキヨシHDは、売上高が同9.8%減の1316億円、営業利益は同38.9%減の56億円。ココカラファインは、売上高が同7.6%減の945億円、営業利益は同39.5%減の17億円となった。
この数値から分かるように、明暗がくっきりと分かれてしまった。ウエルシアの営業利益は対前期比29.4%の増加に対して、マツキヨの営業利益は対前期比38.9%減、ココカラファインの営業利益は対前期比39.5%となっている。あくまで第一四半期の結果であり、今後の社会情勢によって変動は十分に予想されるが、営業利益が前年比3割以上の増減は、はっきりいって異常な事態だ。
なぜ明暗が分かれたのか?
なぜここまで業績に差が出てしまったのだろうか?まずは、各社の公式の見解を見ていきたい。
各社の決算短信
例えば、ウエルシアHDは、衛生品や食品の需要増加と、調剤併設店の増加などを要因に挙げている。(以下は決算短信より引用)
感染症予防対策商品や食品等の需要増により物販売上は順調に推移し、調剤についても薬価改定の影響等があるものの、調剤併設店舗の増加(8月末現在1,511店舗)などのウエルシアモデルの推進により、既存店の売上高は好調に推移いたしました。また、販管費については、人時コントロールによる店舗人時数の適正化や自動発注等の推進による店舗業務の効率化を図り、人件費を中心とした販管費の適正化に努めました。ウエルシアホールディングス 2021年2月期 第2四半期決算短信
次に、ココカラファインは、同様に衛生品や食品の需要増加に言及しつつも、都市型店舗でのインバウンド需要や化粧品の需要減少、調剤の需要減少を要因として指摘している。(以下は決算短信より引用)
新型コロナウイルス感染拡大の影響によりマスクや消毒用アルコールなどの関連商品の需要が増加し、また、外出自粛により食品の売上構成比が高い住宅地型や郊外型の店舗においては来店客数等の増加がありました。しかしながら、都市型店舗でのインバウンド需要や化粧品等の高付加価値商品の落ち込み、調剤事業における処方せん枚数減少等の影響をカバーすることができず、当第1四半期連結累計期間の既存店売上高は7.4%減となりました。
マツモトキヨシも、同様に衛生品や食品の需要増加に言及しつつ、繁華街や都市型店舗の売上減少を指摘している。ただし、調剤については、新規出店により前年並みとの評価だ。
第1四半期は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、マスクや除菌関連及び日用品や食品などの特需が郊外型店舗を中心に発生いたしました。一方で、外出自粛や在宅勤務の推進等により繁華街や都心店
舗では客数が減少するとともに、営業時間の短縮、テナント店舗での臨時休業、感染拡大防止への対策とした至近距離出店店舗での週末臨時休業などにより売上は影響を受けましたが、緊急事態宣言が全国で解除された後
は、繁華街や都心店舗の客数は増加傾向となりました。また、インバウンド売上も出入国制限等の影響により、僅かなものとなりました。
調剤事業は、コロナウイルス禍に伴う医療機関への受診を控える動きや処方箋応需枚数の減少がありましたが、調剤店舗の新規開局などもあり前年同期並みの売上高となりました。マツモトキヨシホールディングス 2021年3月期 第1四半期決算短信
上記の3社の決算短信より、コロナウイルスによるドラッグストア企業への影響は大きく3点に分けて考えられる。
-
衛生品・食品の需要増加
-
都市型店舗の売上減少
-
調剤における処方箋応需枚数の減少
どれも直観的に理解できるだろう。第1に、マスクや消毒液に代表される衛生品や、巣篭り需要を背景にした食品の需要増加が存在する。第2に、外出自粛やインバウンド減少による都市圏の店舗の売上が減少している。外出自粛に伴い、化粧品の需要減少も想定できる。第3に、感染対策意識の向上により通院機会が減少し、処方箋を応需する数が減少した。この点からは、医薬品の売り上げ減少も同時に考えられる。
商品構成に要因を見出す
以上より、コロナウイルスによるドラッグストア企業への影響は、その企業の商品構成に依存すると考えられる。
もちろん、都市型と郊外型という商圏による区分も有効ではある。しかし、以前の記事でも引用したように、ドラッグストアの食品比率と売り場面積には正の相関が見出される。相関関係は必ずしも因果関係を意味しないが、この場合は「食品比率→売り場面積」と考えて支障はない。ドラッグストアの核はH&BC(ヘルスケア&ビューティーケア)にあるため、集客源に過ぎない食品が商品構成に占める比率を上げるということは、売り場面積の増加、すなわち地代の安い郊外型店舗への移行を意味すると考えて自然だろう。事実、コロナの蔓延は、広範な事態であるため、「どこで」よりも「何が売れる」という観点の方が事態を正確にとらえられるだろう。
そして、商品構成の観点から、コロナで別れた明暗の原因を考えると、食品比率が鍵であることが考えられる。
上述した3つの影響の内、衛生品の需要増加は前者に共通するポジティブ要因だろう。コロナで特需が生じた衛生品は、商品の広さと深さが大きいとは考え難いため、ドラッグストア各社で商構成比率に大きな差があるとは考え難い。勿論、店舗数が多いほど、そのポジティブ影響を受ける度合いが強まるが、本記事は大手を対象としているため、店舗数に格段に差があるとは想定しない。よって、衛生品の比率が、企業の業績を分けていたとは考えていない。
次に、都市型店舗の売上減少については、先述したように、都市型・郊外型という商圏区分は、食品比率という商品構成による区分に置き換えて考えられる。両者に相関関係があることは確かであり、「食品比率→売り場面積」という因果関係も理論的に論証できるからだ。最後に、処方箋応需数については、基本的に全社共通のネガティブ要因と考えられる。それに、ドラッグ事業に対する調剤事業の規模を考えると、業績を2分する要因とは言い難い。事実、決算短信から分かるように、調剤併設店を増加したウエルシアやマツキヨは、その悪影響を受けていないが、両者の業績には大きな違いが存在する。
従って、コロナで別れた明暗の要因は、ドラッグストア各社の食品比率の観点から考えるべきだ。一度、ここまでの議論を整理しよう。まずはコロナによりドラッグストア各社の業績が2分化してきた事実を確認した。次に、決算短信を読み解いて、コロナによるドラッグ事業への影響を大きく3つの点にまとめた。最後に、その3つの影響の中でも、食品需要の増加がドラッグストア各社の業績を左右した要因として特定できると論証した。
食品比率は高めるべきか?
以上を背景に、次の記事では、ドラッグストア事業における食品比率をテーマにしたい。コスモス薬局が代表的な例だが、食品比率を高めるドラッグストア企業が近年増加している。それに加えて、そうした傾向を好ましく書くメディアも増加している印象を感じている。
しかし、私はドラッグストア企業が食品比率を高めることに、否定的な立場をとっている。食品比率を高めるスーパー化は、短期的かつ小域的には有効な施策であるが、長期的かつ大域的(全国チェーン化)には悪影響の方が大きい施策という意見だ。
本記事はその話をするための前座として書いていたのだが、思いのほか分量が増えてしまったため、食品比率のトピックは別の記事として書いていく。
【参考文献】
「2社が営業利益100億円突破!コロナで明暗、上場ドラッグストア8社1Q決算」, 小木田泰弘, 2020/09/09 05:55, DIAMOND CHAIN STORE
ウエルシアホールディングスIR情報 http://www.welcia.co.jp/ja/ir/library/earnings.html
https://corp.cocokarafine.co.jp/ir/archive/results.html
マツモトキヨシホールディングス 決算短信 https://www.matsumotokiyoshi-hd.co.jp/ir/